生成AIで問われる大学教育のあり方

飯吉:レポートや論文の執筆に何らかの形で使っている学生は多いでしょう。ただ、生成AIに資料を読み込ませて、出力されたテキストをそのままコピペする学生は、ほとんどの大学で禁止されている行為でもあり、それほど多くはないのではないかと推察しますが、大学にもよると思いますし、正直なところ実態はわかりません。

 大学の教育現場における経験では、多くの学生がレポートを書くプロセスの中で生成AIを使っています。例えば、従来は仲間とレポートの議題について議論し、議論した内容をレポートに書くという学生が多かったのですが、現在は生成AIにアイデアを「壁打ち」して、ブラッシュアップさせていくという学生も増えています。

生成AIの性能はどんどん向上している(写真:Tada Images/Shutterstock.com)

 実際、京都大学の学部生に対して今回の慶応大のケースについて授業中に尋ねてみたところ、「(教員がコピペ対策に躍起になるのも)仕方がないのでは」という意見と「自分のアウトプットを信じてもらえないみたいで不愉快だ」という意見で完全に二分されました。いずれにしても、大学教育において生成AIが利用されるのは、もはや当たり前な時代になっているということでしょう。

 特に今の学生は就職への意識がかなり高く、実際に企業や官公庁などの職場でも生成AIを活用する場面が増えていますから、うまくこのテクノロジーを使いこなせるようになりたいという気持ちは大きいと思います。

 一方、注意すべき点もあります。職場の場合はパフォーマンス重視ですから、生成AIを使おうが使うまいが、そのプロセスは問われないところはありますが、教育は「考えるプロセス」そのものを鍛える場です。

 自ら情報を吟味し、調べ、新しい視点を加え、指導教員や他の学生に指摘されて、初めて考える力がつくはずなのに、生成AIに「丸投げ」していては考える力が退化していくばかりです。さらに、正直な話「この学生は生成AIに依存してレポートを書いているのか」を確かめるモチベーションや手法を有している教員は少なく、注意してくれる大人はそう多くありません。

 ただ「壁打ち」を強化するなど、生成AIと共に成長していける学生にとっては良い時代だと言えるかもしれません。教員に対してはせいぜい授業の時ぐらいしか質問できませんが、今ではオンラインにさえ繋がっていればいつでもどこでも生成AIと対話して、自分の能力を向上させていける。大学教育のあり方自体が、生成AIの発展とともに問われていく時代になっていることは間違いありません。

──大学の成績の最終的な判断基準は、レポートをもとにしている部分も大きいのではないですか。