高額療養費制度の安易な“改悪”は許されない

 では、がん保険の契約と補償内容はどうなっているだろうか。掛け捨てのがん保険の内容をチェックしてみよう。

 その前にがん発症に関するデータを押さえておきたい。生涯でがんに罹患する確率は男性62.1%、女性48.9%(2020年データに基づく国立がんセンターの調査より)。人口10万人当たりの罹患率は45─49歳男性が185.5例に対し、60─64歳男性は1109.3例と約6倍に跳ね上がる。女性も45─49歳は446.8例だが、70─74歳で1193.6例と2.67倍になる。

 つまり、生涯ベースでみれば大ざっぱに言って2人に1人と言われているが、実際には高齢者になってからの罹患率が高く、あまり若いうちからがん保険に加入するのは考えものかもしれない。

がん保険は本当に必要なのか(写真AC)

 そこで60代に罹患すると仮定して40歳でがん保険に加入した場合の保険料、補償内容はどうなっているのかチェックしてみた。

 あるサイトで掛け捨てのがん保険ランキング1位となった商品の40歳男性のケース。保険期間は終身、保険料払い込み期間も終身で、月払い保険料は月額825円。ただし、この保険だと補償内容はがん一時給付金50万円(1回のみ)である。

 そこで医療保険を追加すると総保険料は月額2889円。補償内容は入院給付金1日5000円、手術給付金5万~30万円、放射線治療給付金5万円が加味される。月額2889円で20年間保険料を納めた場合、約70万円となる。それでこの補償内容である。

 経済的に余裕がある、あるいは家系的にがん罹患リスクが高い人ならともかく、通常の生命保険に加入していて医療特約を付けているのであれば、がん保険は不要と考える人がいてもおかしくない。標準治療で済ませるのか、あるいは自由診療、先端医療を望むのかによっても選択肢は異なってくる。

 こうしてみると、大半の人が適用対象となる高額療養費制度がいかに優れた制度であるかがよく分かる。医療費抑制、削減が喫緊のテーマであることは間違いないが、だからといって安易な“改悪”は許されない。今後、再び制度の見直し論が出てくるのだろうが、がん患者をはじめ国民の声をきちんとくみ取って議論すべきである。

【山田 稔(やまだ・みのる)】
ジャーナリスト。1960年長野県生まれ。日刊ゲンダイ編集部長、広告局次長を経て独立。編集工房レーヴ代表。主に経済、社会、地方関連記事を執筆している。著書は『驚きの日本一が「ふるさと」にあった』『分煙社会のススメ。』など。最新刊に『60歳からの山と温泉』がある。東洋経済オンラインアワード2021ソーシャルインパクト賞受賞。