日米関税交渉の本当の争点

 日本がトップバッターに選ばれたのは、米国にとって最も対応しやすく、トランプ政権の功績を誇示するにはうってつけの大国だったからだと思われる。しかし、日本政府のレッドライン(自動車関税25%の撤廃)が思ったよりも強硬だったことで長引いているというのが現状だろうか。

 対米貿易赤字国で最初から相互関税の上乗せ部分がなかった英国はともかく、最大の対米貿易黒字国である中国が相互関税の一律10%部分だけでなぜ許されるのかは判然としない。やはり1980年代から1990年代の発想にとりつかれているトランプ大統領にとって、「自動車輸出で対米黒字を稼ぐ」という事実にアレルギーがあるのかもしれない。

 いずれにせよ、5月23日、再び赤澤大臣が3度目の渡米を行う(4度目も月内にあるらしい)。交渉がどれほど進展しているのかは、漏れ伝わってくる報道だけからではよく分からない。しかし、石破首相や赤澤大臣から再三強調されている通り、自動車関税を抜きにした暫定合意は断固拒否するとの姿勢は明言されている。

 これに対し、米国はあくまで「これは相互関税の交渉であり、自動車関税25%は相互関税ではないので無関係」との主張である。

 この溝が埋まらないゆえの3度目の交渉ということになるのだろう。争点は明らかにメディアや市場参加者が散々囃し立てたドル安ではなく、日本車の対米輸出の取り扱いであり、ここにどのような工夫を施せるのかが問われている。

 既報の通り、米英合意では自動車関税25%について、「英国車の対米輸出に関し、年間10万台を上限として10%とする特例枠」が設けられた。トランプ大統領は同じような特例を他国に適用することはないと述べるが、このようなアプローチは日本が目指すべき着地点の1つではあるだろう。

 なお、「特例枠でも10%が残るのは損失」という声も当然あろうが、中国も英国も10%部分の撤廃にまでは至っていない。普通に考えれば、そこがトランプ政権のレッドラインということなのだろう。

 もちろん、10%の撤廃まで至れば100点満点の回答である。しかし、100点満点を狙って交渉決裂に至り、相互関税24%まで被れば0点である。どのみち、4年後にトランプ政権ではなくなっているとすれば70点や80点で妥協するという戦略はあり得る(もっとも、ポスト・トランプ政権が現トランプ政権の色合いを汲んだものになる恐れは十分あるが)。

 10%のコストアップは当然痛手に違いないものの、計算根拠の怪しい相互関税を丸ごと飲まされるよりはましに思える。