クラウド領主と封臣、農奴の関係
大澤:封建制では、土地を持つ封建領主がいて、その下に領主に従う家臣がいて、さらにその下には農奴(農耕する奴隷)がいます。農奴は働かされて、あがりを家臣に納め、家臣は農奴たちから集めた収穫物を領主に納める。この関係性がそのまま、現代ではサイバー空間の中に移行されていると説明しています。
領主にあたるのが、この本の中では「クラウド領主」と訳されている大手プラットフォーム事業者たち、つまりGAFAMなどです。本書では、分かりやすい例として、アマゾンが比較的多く議論の対象になっています。
家臣にあたるのが、こうしたプラットフォームの中で、商品やサービスを売る事業者たちです。本の中では「封臣」とも呼ばれています。こうした事業者たちは、アマゾンにレントを支払います。「レント」はこの本の中で重要な概念の1つで、家賃や地代のような賃料のことです。
事業者たちはなぜアマゾンを使いたいのか。それはアマゾンがいわば肥沃な土地だからです。農奴たちが日頃からその土地を耕しているから肥沃なのです。では、農奴にあたるのは誰なのかというと、私たち一般消費者、つまりユーザーたちです。
私たちがアマゾンで買い物をする。カスタマーレビューを書く。すると、購買履歴が蓄積され、ユーザーの求める商品が的確に予想されるようになり、アマゾンのプラットフォームはより良いものになります。
使えば使うほどアマゾンの価値は上がりますが、私たちユーザーがやっていることは農奴と同じです。資本主義においては、価値を増やすための貢献をすれば、それは労働であり、労働に対しては、資本家は賃金を支払わなければなりませんが、私たちは一銭もアマゾンからもらっていません。
私たちは、気前のよいアマゾンに、ただでプラットフォームを使わせてもらっているつもりですが、気前よくただで働いているのは私たちのほうです。私たちユーザーは、クラウド農奴だというわけです。
──確かに貢献していますが、対価はもらっていません。
大澤:レントの反対の概念として、この本では「利潤」という言葉が使われています。
マルクス主義には「剰余価値」という概念があります。労働者が労働することによって物に価値が付与され、その付与された部分は労働者に支払われる賃金で表現される価値よりも大きいときに、その余剰にあたるのが剰余価値です。
マルクス経済学を知っている方は、この本で言われている利潤は剰余価値に近いものだと思って読むといいと思います。
アマゾンは巨額を儲けていますが、儲け方は利潤(何かを生産して売ること)ではなくて、レント(場所を貸すことへの対価)であるというのが重要なポイントです。