「陰キャ」を恥じる必要はない

杉本:努力をするということは、自分が可能な範囲を広げるということです。苦しく、辛く、面倒なことです。起業すると、思いもよらない事態が次々と発生します。想定外の様々な苦しみが来ることを覚悟していなければ、頑張ることはできません。

 私はクライアントに「これまでで一番頑張ったことは何ですか?」と尋ねることがあります。大した努力をしたことがない人は起業しても苦戦します。本人が気づいているかどうかは分かりませんが、何でもそこそこで諦める癖がついているのです。

──頑張る必要がないと考える部分もあれば、これは頑張らなければならないと考える部分もある。見極めが難しいですね。

杉本:求める結果に対していい影響を与えそうかどうかが判断基準だと思います。人と話をするときに、ウケがいいとか、ノリがいいとかいうことが、どの程度売り上げに関係するのか。仕事によってはそうした側面が大きく影響する場合もあります。

──「KIO 陰キャ×自由ヶ丘支部」という活動を主催されています。これはどんな集まりでしょうか?

杉本:「カッコイイ大人の会」という経営者交流会があります。これを略して「KIO」と呼びます。実は過去に何度か別の経営者交流会に参加したことがあるのですが、いつも強い敗北感を覚えてやめてきました。

 でも、「カッコイイ大人の会」は自分には向いていました。

 やがてこの会の中で私が支部を作ることになりました。経営者交流会で支部を作るとなると、通常はエリアや職業の単位で集まりを組織します。私は「陰キャな社長」というくくりで支部を作りました。自分が自由ヶ丘に住んでいることもあり、場所を自由ヶ丘にしたのです。

 この会を作ってみて分かったことは、私と同じように経営者交流会に参加しては、苦しい思いをしている経営者が少なくないということです。ですから、陰キャの人たちだけが参加する空間というものに、共感してくださる方がたくさんいます。

 私たちの交流会は、黙々と学ぶ純粋な勉強会で、飲み会やパーティーのような催しはありません。陰キャでない人には理解が難しいかもしれませんが、同じテーマを深く学ぶ仲間として、いい交流や仕事の取引も生まれており、とても上手くいっています。ビデオ会議形式のミーティングには、全国から参加者が集まります。

──陰キャな自分を隠し、無理に明るく振舞い、疲れ果てている人は少なくないのですね。

杉本:そのような方はたくさんいます。「あなた本当は陰キャでしょ?」と私が聞くと、告白を始める人は少なくありません。「陰キャは恥ずかしい」という思いから本性を隠し、陽キャに憧れて陽キャぶったりしてみるのですが、むしろ限界を感じて、うつになってしまう人もいます。

 自分のそうした性質を隠さずに、ありのままで生きてほしいと思います。家族を含め周囲の人からの理解も必要です。親も学校の先生も「この子は暗いから明るくさせよう」なんて思わなくていいのです。

 本人が本当に嫌だったら、自分で性格を変えると思います。変えたくなかったり、変えられなかったりするのであれば、変える必要はないのです。

杉本幸雄(すぎもと・ゆきお)
ぼっち起業家
起業コンサルタント
1969年1月生まれ、明治大学農学部卒業。幼少の頃から虐待やイジメに遭い、人生の前半はドラマのようなどん底人生。社会人になってからは、正社員だけでなくアルバイトや派遣スタッフなど、どこで働いても長続きしなかった。10社以上に転職した後、20年前にコンサルタント業で起業。ぼっちや陰キャ経営者からのコンサル依頼が絶えない。陰キャや人見知りの経営者向け交流会「KIO 陰キャ×自由が丘支部」支部長。

長野光(ながの・ひかる)
ビデオジャーナリスト
高校卒業後に渡米、米ラトガーズ大学卒業(専攻は美術)。芸術家のアシスタント、テレビ番組制作会社、日経BPニューヨーク支局記者、市場調査会社などを経て独立。JBpressの動画シリーズ「Straight Talk」リポーター。YouTubeチャンネル「著者が語る」を運営し、本の著者にインタビューしている。