SHEIN供給網に動揺、広州「シーイン村」苦悩 関税回避のベトナム移転に壁
一方、超ファストファッションで世界を席巻するシーインの生産拠点、中国・広東省広州市郊外の「シーイン村」と呼ばれるサプライヤー集積地(番禺区)にも暗い影が落ちている。英ロイター通信によると、現地の複数の工場経営者は、シーインからの受注が今年に入って半減したと証言。その理由として、シーインが関税回避のために、生産拠点の移転・多様化を図っていることを挙げる。
「トランプ大統領が就任してから、シーインは多くの取引先にベトナムでの工場開設を働きかけている」と、あるサプライヤーは語る。最低発注量の保証などを条件に、一部の有力サプライヤーにはベトナム移転へのインセンティブが提示されているとの情報もある。
しかし、シーインにとって生産拠点の移転は容易ではない。広州のサプライチェーンは、数千もの新しいデザインを少量・短納期で生産し、世界中の消費者に低価格で直送するというシーイン独自のビジネスモデルの心臓部だ。「このモデル全体を移転すれば、納期やコストに間違いなく支障が出る」と専門家は指摘する。ベトナムでの生産は、関税面でのメリットは期待できるものの、「中国に比べて労働生産性が低い」(工場経営者)との指摘もあり、コスト高につながる可能性が高い。そのコストを消費者に転嫁すれば、シーイン最大の武器である価格競争力が失われかねない。
シーイン側は公式声明で、サプライチェーンの中国国外移転を「事実ではない」と否定し、中国国内でのサプライヤー拡大や大規模投資計画(広州・増城区のサプライチェーンハブなど)を強調している。しかし、現場のサプライヤーからは悲鳴に近い声が上がっており、「倒産するか、ベトナムに行くかの二択しかない」と語る経営者もいる。
米国の狙いとEC各社の試練 ビジネスモデル転換迫られ、消費者にも影響
今回のトランプ政権の措置は、テムやシーインだけでなく、米アマゾン・ドット・コムやTikTok Shop(ティックトック・ショップ)上で中国製品を販売する多くの事業者にも影響を及ぼしており、値上げの動きが広がっている。
米政府には、デミニミス・ルールを利用した中国発ECの急拡大に歯止めをかけ、国内産業を保護する狙いがある。テムやシーインにとっては、単なる価格調整にとどまらず、サプライチェーンの再構築を含めたビジネスモデルそのものの見直しを迫られる可能性がある。「調達基盤の多様化とビジネスモデルの大幅な変更を同時に進めなければならない」(米デラウェア大学、シェン・ルー教授)との指摘もあり、両社がこの難局をどう乗り越えるのか、その戦略が注目される。
消費者にとっては、これまで享受してきた超低価格時代の終焉(しゅうえん)を意味する。米中間の貿易摩擦と技術覇権争いが、消費者の日常的な買い物にも直接的な影響を及ぼし始めた。