ほぼすべての人類は文字と共に生きてきた

 地球上にこれまで存在した人類の累積総数は、1100億人程度と推定されます。ホモ・サピエンス(現生人類)がアフリカに出現したのが約30万年前と言われていますが、約1万年前の農耕革命以前の人口は非常に少なく、数百万〜数千万人程度で推移していたと考えられます。それが、16〜17世紀の科学革命、18世紀の産業革命を経て、爆発的に増え始め、1800年に10億人、1900年に16億人、2000年に60億人、2023年には80億人に到達したとみられています。

 古代メソポタミアで楔形文字が発明されたのが紀元前3000年頃、人類の知が爆発した枢軸時代が紀元前800年〜紀元前200年頃ですから、ほぼすべての人類は文字と共に生きてきたことになります。

 ここでいう枢軸時代というのは、哲学者のヤスパースが提唱した概念で、世界の複数の地域でほぼ同時に、人間精神に根本的な変革が起こった、紀元前800年〜紀元前200年頃の時代を指します。具体的には、ギリシアでソクラテス、プラトン、アリストテレスといったギリシア哲学、インドでウパニシャッド哲学やブッダの仏教、中国で孔子の儒教、老子の道教などの諸子百家、中東でユダヤ教やゾロアスター教が誕生したことを指します。

 そうした人類の知が蓄積されているのが書物であり、その中でも、歴史の荒波に揉まれながら生き延びてきたものが古典と呼ばれる名著なのです。ですから、人類の知を学ぶために読書をするのには、大いに必然性があるのです。

 他方で、今では書物という紙媒体に限らず、映像や音声を含むデジタル情報として、ネット空間にも膨大な知が蓄積されていますし、それを検索エンジンだけでなく、AIで簡単に引き出したり、編集したりすることが可能です。

 こうした膨大な知識を、人間の五感をフル活用することによって、自分の中に取り入れていく作業が「学習」です。

 今から2400年も前に、アリストテレスが『形而上学』の中で、「人間は生まれながらに知ることを欲す」と書いたように、人類の「知りたい」という欲求には際限がありません。人間が学習するエネルギーは、そうした「知りたい」という欲求からきているのです。