エヌビディアの2025会計年度年次報告書(FORM 10-K)によると、中国はエヌビディアにとって4番目に大きな市場である。エヌビディアの中国における年間売上高は171億ドル(約2兆4000億円)で、総売上高の13%を占める。この中国比率は前年で17%、2年前で21%と、低下傾向である。

 その理由は、米国など他の地域でAI向け半導体の需要が急増したことにある。実際、同社の2025会計年度における総売上高は前年の2.1倍、2年前の4.8倍に増大した。もちろん中国事業の売上高も前年比1.7倍と増加したが、米国の2.3倍、シンガポールの3.5倍と比較すると伸び率は低いと言える。

 エヌビディアはこのほど、台湾の製造パートナーと協力して、AIスパコンやAI半導体を米国内で生産すると発表した。その主要顧客は米国のIT大手である。今後は収益面で米企業への依存度が一層高まる可能性がある。

中国のAI開発に制約も、中国産半導体へのシフト加速

 今回の米政府の措置により、中国企業のAI開発は制約を受けることになる。高性能AI半導体へのアクセスが一段と困難になることで、開発ペースが鈍化するとみられる。

 その一方で、華為技術(ファーウェイ)の半導体設計子会社、海思半導体(ハイシリコン)などが開発する国産半導体へのシフトが加速する可能性もある。エヌビディアにとっては、中国市場での売り上げ減少を補うための新たな成長戦略や、規制に抵触しない製品ラインアップの再構築が急務となる。

H20に続く3度目の規制回避品「B20」、その成否は?

 エヌビディアのH20は、2022年に導入された「Hopper(ホッパー)」と呼ばれる前世代のAIアーキテクチャに基づく。エヌビディアは現在、「Blackwell(ブラックウェル)」と呼ばれる現行世代品の販売に注力している。ロイター通信は2024年半ば、エヌビディアがこのBlackwellアーキテクチャーに基づく中国向けダウングレード版「B20」の市場投入準備を進めており、25年4~6月期にも出荷が始まる見通しと報じていた。

 これが実現すれば、エヌビディアにとって、B20は3度目の米規制回避品となる。

 しかし、今回のトランプ政権の措置により、その3度目の可能性は遠のいたのかもしれない。米政府が今後、H20の輸出ライセンスをどの程度許可するかは不透明であり、バイデン政権下で導入された「AI拡散ルール」が一層強化される可能性もある。米中間の技術覇権を巡る対立は今後も続くとみられ、エヌビディアや世界の半導体産業にとどまらず、ハイテク産業全体の動向に大きな影響を与えそうだ。