ハウス栽培で発芽したキャベツは移植機を使って植え付け作業を行う(写真提供:市場秀信)
冷蔵庫を開けるといつも野菜ケースの中にあった庶民の味方。ビタミンC、ビタミンK、ビタミンU(キャベジン)が豊富でどんな料理にも使える万能野菜として知られるキャベツが、今年1月中旬に一部地域で1玉800円、中には1000円に高騰し消費者から悲鳴が上がった。
その後は極端な価格から値下がりし現在は200~300円ほどで安定しているが、キャベツ農家に取材すると、近い将来、再び値上げに追い込まれる可能性があるという。なぜキャベツの未来は悲観的なのか。それを探るため日本屈指のキャベツ生産地である群馬県嬬恋(つまごい)村に向かった。
(鄭 孝俊:フリージャーナリスト)
夏秋キャベツの出荷量は54年連続日本一
浅間山を望む広大な嬬恋村のキャベツ畑。7月~10月に収穫される夏秋キャベツの出荷量は54年連続日本一を誇っている。
出迎えてくれたキャベツ農家の市場秀信さん(50)は、14ヘクタールの農地を持ち、年間10万ケースのキャベツを出荷している。1ケースは2L玉で6個、L玉で8個、M玉で10個。1ケースは約10キロの重量となる。規格外のキャベツは餃子用など工業用として別途扱うという。
たわわに実ったキャベツ。濃い緑色の外葉は肥料として再利用される(写真提供:市場秀信)
4月から7、8月にかけて夏キャベツ、6、7月から10月にかけて秋キャベツを育てて収穫するのが、農作業の標準的サイクルだ。最近のキャベツ高騰の理由を聞くとこう説明してくれた。
「全国的なキャベツの高騰と嬬恋村は実はあまり関係がありません。嬬恋村は夏秋キャベツの生産量で日本一を誇る地域で作年秋にはすでにキャベツ収穫は終わっていましたから。キャベツ高騰の原因は異常気象です。冬キャベツの生産拠点である愛知県、千葉県、茨城県などでは12月の降水量が例年と比べて異常に少なくキャベツの発育が遅れてしまったのです」
干ばつが愛知県や千葉県を襲う一方、嬬恋村に悪影響は及ばなかった。嬬恋村は標高800〜1400mの高冷地に位置し夏の平均気温が20〜25度とキャベツの生育に適している。しかも、嬬恋高原の降雨量は安定し浅間山の火山灰を含む黒ボク土はリン酸吸収係数が高いうえ、保水性や透水性が良くホクホクしていることから耕起が容易だ。
昼夜の寒暖差が大きいのに冬の降雪は少ないという気候条件が、甘くて瑞々しい嬬恋キャベツの生育に適しているという。2020年の統計によると嬬恋村の総農家数は約750戸で、そのうちキャベツは約400(農業経営体)となっている(出所は「市町村の姿 グラフと統計でみる農林水産業」詳細データ)。


