4月6日に行われたF1日本グランプリ決勝(鈴鹿サーキット、写真:共同通信社)
F1(自動車レースの世界最高峰であるフォーミュラワン)の日本での人気が高まっている。4月に行われた鈴鹿グランプリには、3日間で26万6000人が来場した。1980年代後半から90年代にかけてのF1ブーム時代は30万人以上が詰めかけたが、2006年をピークに減少。2017年には、台風の影響で予選が中止となった年を除くと、過去最低となる13万7000人まで落ち込んだ。
しかしその後、着実にファンを増やしてきた。2011年には地上波の放送が終了し、現在は有料放送(フジテレビNEXT、DAZN)のみという環境の中で、なぜF1人気は復活しつつあるのか。「角田裕毅」というスターの躍進だけではない背景──リバティ・メディアによる世界戦略からホンダやトヨタの現状まで、モータースポーツジャーナリスト小倉茂徳氏の解説でお届けする。
ロンドンの街を気軽に歩けない、角田裕毅は日本より海外で人気
「かつてのF1ブームを彷彿させるような盛り上がりでした」
約30年ぶりに、東京から鈴鹿サーキットに観戦に行ったという清水さん(仮名、55)は語る。数年前からF1にはまったという20代の娘との観戦だった。一番の楽しみは角田裕毅選手(24)を見ること。開催直前の3月に発表されたレッドブル移籍に沸き立った。
現在、日本人唯一のF1ドライバーである角田裕毅は、弱冠20歳でF1デビューした。レッドブルの弟チーム「ビザ・キャッシュアップ・レーシングブルズ(RB)」で着実に結果を積み重ねたことと、レッドブルのドライバー(リアム・ローソン)の不振が相まって、シーズン中の3月に電撃昇格となった。
現在、日本人唯一のF1ドライバーである角田裕毅(中央、写真:©Eric Alonso/PsnewZ Via ZUMA Press/共同通信イメージズ)
レッドブルは、ここ数年、コンストラクターズチャンピオン(チーム優勝)やドライバーズチャンピオンを獲得し続けてきた強豪チームである。表彰台を狙えるチームへの移籍は、F1ファンのボルテージを上げている。
これまで角田裕毅の知名度は、日本よりも海外のほうが高かった。声をかけられる機会は、「圧倒的に海外のほうが多い」「ロンドンやアメリカでは、外をあまり(気軽に)歩けない」と本人も語っている。インスタグラムのフォロワー数は、日本人アスリートの中で、大谷翔平についで第2位(317万人)。レッドブルへの昇格によって、日本での注目度もようやく高まってきたと言えるだろう。
レッドブル移籍で人気が高まる角田裕毅(写真:©Florent Gooden/PsnewZ via ZUMA Press/共同通信イメージズ)
昨今の日本でのF1への関心の高まりについて、モータースポーツジャーナリストの小倉茂徳氏は、まず角田選手の活躍を挙げる。
「今年からNHKがスポーツニュースでF1を扱うなど、日本人選手が活躍すると、メディアの取り上げ方が変わってきます。F1の露出が増えることで目にする人が増え、注目する人が増えているのだと考えられます。
ただ、F1のファンはインターナショナルな思考を持っている方が多く、特に日本のファンは、日本人に限らず、さまざまなドライバーやチームを応援してきました。以前、イギリスのBBCが、『これほど多くの国旗がはためく観客席を見たことがない』と驚いて実況したくらいです。それでも日本人の選手が活躍する、それもトップチームで活躍するとなると、日本人としてはうれしいですよね」
F1バーレーングランプリ決勝で走行するレッドブルの角田裕毅(2025年4月14日、写真:ゲッティ=共同通信社)
