山形で進む食に関する最先端研究
山形県は、大きく異なる4つの文化圏から成り立っている。4つの地域とは「庄内地方」「最上地方」「村山地方」「置賜地方」である。
日本海に面する鶴岡を含む庄内地方は米や海産物の産地として知られる。山間地域の最上地方は新庄市を中心とし、アユやイワナ、山菜、キノコなどの山の幸が有名だ。
村山地方は、山形市を擁する現代においては行政や経済の中心。サクランボと言えば村山地方だ。置賜地方は、南部の米沢市を中心とする地方で、米沢牛の産地として有名だ。ここは上杉氏がかつて治めたことで独特の文化を築いてきた。
このように、それぞれの地域が特色を持ち、特徴的な食材や食文化がある。鶴岡では、例えば、「甘みと香りが特徴のだだちゃ豆」「ブランド米として有名なつや姫(庄内米)」など、独自の食材が人気だ。
山形県を代表する料理である芋煮も、地域ごとに異なるスタイルがある。村山地方(山形市など)では牛肉を使った醤油ベースの芋煮、庄内地方(鶴岡など)では豚肉を使った味噌ベースの芋煮と、材料や味付けが大きく異なる。
このように、食材や食文化の独自性がとても高い。こうした多様性があるために、山形県では食文化への意識が高いのではないかと考えている。メタボロームというバイオ研究を基礎として、食に関する研究が盛んなのも、こうした独自の食材や食文化があるからだろう。
こうした農の研究がどこに向かうかと言えば、健康科学だ。
「医食同源」という言葉が示すように、食と健康が深く結びついていることは、古くから知られている。実際、不適切な食生活は、肥満、2型糖尿病、高脂血症、高尿酸血症、高血圧といった代謝疾患の発症リスクを高めることがわかっている。
これらの疾患は、食生活を改善することで症状が緩和されたり、寛解したりする例も多く、食が健康に与える影響の大きさを裏付けている。
一方で、食事と健康に関する情報には、科学的な裏付けが十分でないものも多く存在する。
例えば、「コラーゲンを摂るとお肌がつやつやになる」と耳にしたことがあるかもしれない。もっとも、コラーゲンは食べた後、体内で胃酸、膵液などに含まれる消化酵素によってアミノ酸にまで分解されないと吸収されない。
さらに、血液に取り込まれた後も、摂取したコラーゲンそのものが肌(真皮層)までそのまま届くということは、科学的にはほとんど確認されていない。だとすれば、コラーゲンを食べたところで何の意味もない。
コラーゲンは一例だが、食にまつわる情報をしっかりと科学的に検証し、正しい知識に基づいた「食と健康」の関係を明らかにすることが今後、ますます重要になってくるのは間違いない。