エディー・バウワーが日本に上陸した時のストーリー
たとえば、先にお話ししたエディー・バウアーの日本上陸の際は、「ダウンジャケットの発明」と「無条件返品」というのをキーワードにして、一番の強みである伝統と品質を伝えていきました。これによってブランドの価値を実現しようとしたのです。
彼の生涯は本になるほどですが、それを全部伝えるわけにはいきません。広告の一文、接客のひとことでブランドの本質が伝えられるようなシンプルなキーワードによる「ストーリー」を作ることがとても有効です。
シアトル発祥のスターバックスコーヒーは、日本の上陸以来「サードプレイス」という概念を提唱してきたと言っています。
サードプレイスとは、自宅でも職場でもない、第3のリラックスできる場所のことです。この原点は1980年代に幹部が語ったという言葉に表れています。
「バーガーショップは客の腹を満たす、いいコーヒーハウスは魂を満たす」(*)
*『 ザ・ブランド・マーケティング』(スコット・ベドベリ&スティーブン・フェニケル:著/実業之日本社・2022年)
この時点からスターバックスが目指す付加価値は決まっていました。サードプレイスという言葉があったがために、魂を満たすという抽象的な概念をわかりやすいストーリーとして伝えていくことができたのでしょう。
このようにプレミアムプライスが受け入れられるには、広く社会にそのブランドの付加価値が浸透していることが必要です。では、それは誰がどうやって伝えるのでしょうか。
ブランド伝達のあるべき経路としては、ブランドの本質に共感した顧客が他の人にもそれを伝えていく、といういわゆるクチコミが挙げられます。社会に伝えるのは顧客ということです。
従来のクチコミは対面ですから伝達できる人数は限られていましたが、現在はSNS によって、伝統的なマスメディアに匹敵するような伝達力を持ちうるようになってきています。それゆえに。「ストーリー」の存在は今まで以上に大きな役割を持つようになりました。
企業側もそれを利用する動きが高まっています。いわゆる「ファンマーケティング」です。まず自ブランドの熱狂的なファンを対象に、その人たちが喜んでもらえる施策に特化する。それに満足したファンが周りにその体験を発信してくれることで、新たな顧客が生まれるというものです。
ブランドのストーリーを理解し共感する人からの発信には、通常の広告にはない力があります。
特に近年はモノの価値以上にそれを使うことによって得られる体験の方により付加価値を感じる傾向があるため、ストーリーの発信による事業の拡大はますます重要性を増していくことでしょう。