穏やかな曲調に編み込まれた、リズム感のある3連符

3P分析のフレームワーク(書籍より)

 《主よ、人の望みの喜びよ》は、誰もが知るバッハの名曲です。一度聴いたら忘れられない、のびやかに天に向かって高らかに歌い上げるコラール(ルター派の讃美歌)。厳かな音色の中にも親しみがあり、筆者にとっても結婚式や入学式や卒業式のBGMとして、人生の節目の場面に寄り添ってくれた印象深い音楽でもあります。

 この曲はバッハがライプツィヒでカントルに就任してすぐに作曲された、カンタータ《心と口と行いと生活によって》のフィナーレを飾るコラールです。「マリア訪問の日」という、祝日に披露された祝祭的な雰囲気のカンタータで、この終曲《主よ、人の望みの喜びよ》の後、牧師説教となります。

 この曲の特徴は、やはりリズム感のある3連符のモチーフでしょう。ト長調の穏やかな曲調の音楽が3連符を編み込み、美しい韻律の詩と共に祈りの歌を歌います。ここでもバッハの複雑な対位法や透明感のあるハーモニーの妙技を感じることができます。

 複雑で立体感があるのに、シンプルに聞こえる。さまざまな楽器にもアレンジされており、世紀を越えて愛され続けるバッハの音楽的才能がわかる一曲です。

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