新国立劇場の25周年記念公演として上演されたヴェルディ「アイーダ」。歌手、合唱、バレエなどが織りなす巨匠ゼッフィレッリの演出は壮大なスペクタクルである。新国立劇場の「アイーダ」は世界のオペラ通にも知られつつある。音楽ジャーナリストの林田直樹氏が、「アイーダ」の魅力とヴェルディが「アイーダ」に込めた本質的な問い、同様に国家の本質を突いたブリテンの「シンフォニア・ダ・レクイエム」を解説する。
(林田 直樹:音楽ジャーナリスト・評論家)
オペラを一度も観たことがなくとも、サッカーの応援歌として、イタリアの作曲家ジュゼッペ・ヴェルディ(1813-1901)のオペラ「アイーダ」の凱旋行進曲のメロディを知っている人はきっと多いことだろう。
誰もが覚えやすいこの名旋律は、オペラの中では古代エジプトの軍隊が隣国のエチオピアに勝利したことを祝う「凱旋の場」で、アイーダ・トランペットという特注の楽器によって演奏される。
古今東西のオペラの中でも特に華やかなシーンであり、世界中のどのオペラハウスでも「アイーダ」となると、ここぞとばかりに豪華絢爛な舞台を競って展開する。
この4月には東京・初台の新国立劇場で「アイーダ」が久しぶりに上演されたが、全7公演とも大盛況であった。
その理由は、単に「アイーダ」がイタリア・オペラ屈指の人気演目だからというだけではない。
新国立劇場が所有している舞台美術は、イタリアの大演出家フランコ・ゼッフィレッリ(1923-2019)がこの劇場の開場記念公演(1998年1月)のために精魂込めて作り上げたものであり、オペラの本場ミラノ・スカラ座や、ニューヨークのメトロポリタン歌劇場に勝るとも劣らない圧倒的な美しさを誇っているからである。
公演当日には客席に欧米人観光客の姿もちらほら見かけた。世界最高の「アイーダ」の舞台美術――古代エジプトの文化を鮮明に再現した装置だけではなく、衣装も照明も小道具も、そして歌とオーケストラとバレエが一体となって作り出す高揚感のすべて――が東京で観られることが、各国のオペラ通の間にも少しずつ知れ渡っているに違いない。
新国立劇場はこの「アイーダ」を約5年に一度再演し続けているが、今後も可能な限り、このプロダクションを守り続けていくだろう。
思えば、国立のオペラハウスを手にすることは、音楽・舞台関係者にとって長年の悲願でもあった。それは日本が一流の文化国家であることの証しでもあるからだ。
その開場記念演目のひとつとして「アイーダ」がふさわしかったのは、豪華というだけではなく、このオペラが「国家」というものの本質を問う作品だったからである。
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