(林田 直樹:音楽ジャーナリスト・評論家)
かつてヨーロッパは世界の頭脳であり、パリは世界の文化の首都だった。あらゆる芸術家たちはパリで成功することを夢見、パリこそが最先端の流行の発信源だった。
クラシック音楽においても、それは同じである。
オペラの中心、それはウィーンやミラノやロンドンもそうかもしれないが、何よりもパリで成功することこそが、作曲家たちにとっての最高の名誉の証しだった。
あのヴェルディやワーグナーでさえ、フランス語によるバレエの場面を含む形でのオペラを上演している。パリの誘惑には抗しきれなかった。
その象徴が、パリ・オペラ座である。
アーティゾン美術館で開催されている「パリ・オペラ座—響き合う芸術の殿堂」展(2023年2月5日まで開催)では、ルイ14世にまでさかのぼる国家ぐるみの劇場としての栄光の歴史と、深くかかわった芸術家たちの息吹きを感じることができる。
◎「パリ・オペラ座—響き合う芸術の殿堂」(https://www.artizon.museum/exhibition/detail/545)
パリにはたくさんの劇場があるが、国立のオペラハウスは現在、バスティーユの新オペラ座(1989年落成)と、旧ガルニエ宮(1875年落成)の二つである。このうち、歴史の重みを感じさせる建築物として美しいのはガルニエの方で、今回の展示もそちらが中心となっている。
誰もが圧倒されるのは、このエントランスの豪華さである。