(林田 直樹:音楽ジャーナリスト・評論家)
ヴェルディのオペラとは「厳格」なもの
「イタリアの墓場に行ったことはありますか? 本当に怖いんです。イギリスみたいにあんなに綺麗なお庭なんかない」
あれはめちゃくちゃ怖い、と何度か繰り返してからムーティは言った。
「これがイタリアのカラーなんです」
3月18日東京文化会館大ホール。東京・春・音楽祭(4月16日まで開催中)の一環としておこなわれた「イタリア・オペラ・アカデミー」で、ヴェルディ作曲のオペラ「仮面舞踏会」の作品解説の会に登壇したリッカルド・ムーティ(1941年ナポリ生まれ)は、日本全国から若手演奏家を集めた「東京春祭オーケストラ」とのリハーサルを兼ねつつ、聴衆に向かって熱く語りかけた。
その様子は、81歳とは思えないエネルギッシュさだった。
ミラノ、ウィーン、ロンドン、フィラデルフィア、シカゴなどを拠点としながら、世界屈指の名指揮者として、長年にわたってクラシック音楽界をリードしてきたムーティが、いま最も熱意を注いでいるのが、とりわけ得意とするイタリア・オペラにおける自らの経験や技術を、いかにして次の世代に伝えるかということである。
この日の作品解説も、そんなムーティの使命感のあふれる素晴らしい催しだった。
そこでムーティがユーモアを交えつつ強調していたのは、オペラとはエンターテインメントではなく、もっと真面目な芸術だ──ということである。特にジュゼッペ・ヴェルディ(1813-1901)のオペラは言葉の音楽の関係において「厳格」であると……。