――苦しくなる手前の状態を保つわけですね。ヒトの腎不全患者さんでは、透析があまりに辛くて中止を決意する方もおられると聞きます。
宮﨑 末期腎不全では尿毒症と呼ばれ、百種類を超える毒素が溜まって全身が炎症状態となり、多臓器不全に至るので非常に苦痛が大きいのですが、現在は透析治療か腎移植しか手立てがありません。透析は自分の弱ってしまった腎臓の代わりに機械で毒素をろ過し生命を維持する重要なものですが、患者さんの大事な時間や体力をとてもたくさん使わなくてはならない。そのことに耐えられなくなる患者さんはおられるでしょう。でも、止めると死んでしまう、しかも非常に苦しんで死ぬことになるというのがこの病と生きる難しさです。
ネコは10年~15年、ヒトは30年ぐらいかけて末期に至ります。じわじわと広がる山火事をなぜ途中で消せないのか。何十年も多くの医師や研究者が取り組んできたはずなのですが、実現できなかった。私は慢性腎臓病の研究に使う適切なモデル動物がいなかったという事情も関係しているのではないかと思っています。

生命科学研究ではマウスを使うことが多いですが、ヒトと同じように自然に発症して長い時間をかけて少しずつ悪化し、最後に劇的に症状が悪化するような腎臓病のモデルマウスがありません。ネコはヒトの腎臓病の特徴をとても正確に再現しています。ネコの腎臓病をもっと研究することで、ヒトの腎臓病の研究や治療法の開発を加速できるのではないでしょうか。
血液検査に協力してくれる猫を募集中
――AIMがしっかり働いてくれたら、ネコもヒトも感染症にかかったり、ケガをしたりしても回復が早くなる可能性がありますか?
宮﨑 感染症やケガはどうか分かりませんが……(笑)。AIMをワクチンのように使用して、私たちがもともと持っているゴミを掃除するシステムを定期的に強化することで、さまざまな病気の予防につながるかもしれませんね。トイレの水を定期的に流しておけば、汚れがこびりつかずいつもきれいな状態であることと同じです。そうすれば、本当に人(猫)生をまっとうすることができるのではないかと思います。
いつかは死を迎えますが、そのときまで不自由が少なく生活できることが真の意味で老衰ではないでしょうか。よくピンピンコロリが理想の死だと言われますが、そうなれば寿命の長短だけでなく、未来への不安や恐怖も少なくなるかもしれません。
現在、特定のステージの慢性腎臓病の猫がどのくらいいるかについて調査をしています。地域が限定されているのですが、なるべくたくさんのネコちゃん、飼い主さんにご協力いただきたく募集をしております*4。どうぞよろしくお願いします。
*4 「調査(血液検査)参加猫募集」採血を受けることができる実施病院の所在地については「株式会社IAM CAT」のウェブサイトで公開している。
(次回に続く)