日本人の同質性は縄文時代に形成された?
──それがなぜ日本の中で起きたのかという部分につながる話だと思いますが、縄文時代には日本に国家はなく、この間、戦争もなかったと書かれています。
池田:ここから先は私の仮説です。
氷河期が終わったのはおよそ1万2000年前です。日本で定住生活が始まったのが、1万年から1万2000年くらい前だと言われています。有名な三内丸山遺跡は5000年前から1700年ほど続きました。ここは縄文式土器で知られています。土器が見つかるということは、そこに定住していたということです。
日本の土器は、ものすごく古いものは1万6000年前のものまであるのですが、少なくとも1万2000年くらいから定住生活が始まっていたことは間違いないようです。放射性炭素年代測定法(※)を使えば、かなり厳密に遺跡がいつ頃のものか特定することができます。
その結果、縄文時代がとても長いことが明らかになりました。
※放射性炭素年代測定法:生物由来の炭素系物質に含まれている放射性炭素の量から年代を測定する方法。
縄文時代はおよそ1万年続いたと考えられ、日本人のほとんどの歴史は縄文時代でした。普通、定住生活といえば農業ですが、最近はこの考え方が間違いであることが分かってきました。
日本の場合は、農業が始まったのは弥生時代ですから、およそ1万年間は「定住はしたけれど農業をしない時代」が続きました。これは世界的に見ても珍しいことです。
こうした社会の中に日本人の特異性が現れている。つまり、1つの集落に皆長いこと住んで、ヘンな奴が出てきたら排除する。お互いに同質な人たちだけで仲良く暮らしてきたのです。
──典型的な村社会ですね。
池田:それが1万年ぐらい続いている。ここで、先ほどの自己家畜化です。大人しい者同士が子どもを作れば、大人しい子どもの生まれる確率が高い。少なくとも、狂暴な人間はなかなか相手を見つけられないので、子孫を作ることができなかった。日本人の空気を読む性質は縄文時代に醸成されたのではないかと思います。
考古学者の松木武彦氏も言っていますが、日本の縄文時代の遺跡の特徴は、遺骨から殺人の痕跡が見られないことです。ゴリラ学で有名な人類学者の山極壽一氏がこの分野の研究では有名ですが、彼もこの時代の日本人がたくさんの殺し合いをしていたという見方はもはや古いと否定しています。
ところがその後、農耕時代が訪れると殺し合いが始まります。つまり、農耕の発生と共に戦争が発生している。定住すると、嫌な奴とも一緒に住まないわけにはいかなくなる。仲良くしているだけでは間に合わないのです。