イラン核施設の完全破壊には米軍最強のバンカーバスターでも不十分
こうした地中深く設置されている施設を破壊するには、3万ポンドの重量があるGBU-57/B Massive Ordnance Penetrator(MOP、大型貫通爆弾)といった、いわゆる巨大なバンカーバスターが必要であるが、こうした爆弾を保有しているのは米軍のみであり、これまで米国はイスラエルに提供することを許可してきていない。
さらに言えば、米軍の有するこのバンカーバスターですら最大地下61メートルが到達距離と言われており、一回の爆弾投下だけでナタンズやフォルドウの地下深い濃縮ウラン施設を破壊することは不十分と見られる。他方、イスラエルに実際に供与されている BLU-109(2000-pound bunker-busters)では、せいぜい最大でも30メートルまでの土壌しか破壊できない(強化コンクリートであればわずか最大2.4メートル程度)(注:もっとも、最近、米国はイスラエルに対して精密誘導を可能とするガイダンス・キットを供与することを発表している)。
そうなると、もしイスラエルが独自にイランの核施設の完全破壊を狙うのであれば、米国がイスラエルにGBU-57/B Massive Ordnance Penetrator(MOP)およびこれを運搬できるB-2ステルス爆撃機を供与した上で、少なくとも複数回の爆弾投下を行うというオプションしか残らないであろう。
さらに言えば、これは、数百キロトン級の核爆弾を投下するという究極の核オプションを除外した上である。この点で、米国の寛大なる支援と協力がイスラエルに提供されない限り、イスラエル単独によるイラン核施設の完全破壊はほぼ無理である(実際、イスラエルがイランの核施設を完全破壊することはできないとの限界を明確に指摘する分析がある)。
したがって、いかなるイスラエルの攻撃であろうと、イランの核開発を遅らせる効果はせいぜい数週間や数カ月であっても、通常兵器だけではイランの核開発の意思を完全にくじくことはできないというのが結論となる。

今後のシナリオは?
こうしたイスラエルの軍事的な限界を前提に常識的に考えれば、イランとの間では外交交渉によって核開発の進展を可能な限り遅らせるというオプションの方がより現実的である。まさにそれが10年前のイラン核合意、「JCPOA」であった。そして、それは第一次トランプ政権によるイラン核合意脱退によって、潰えたのである。
そうなると今後、どのような展開が考えられるのか。一説によれば、以下のような可能性が取り沙汰されている(参考:“Netanyahu’s Quest to Attack Iran with the ‘Mother of all Bombs’”,MODERN DIPLOMACY)。
(1)イスラエルと米国の協力シナリオ(両国が一致し協力の上、攻撃を行う)
(2)イスラエルと米国の非協力シナリオ(米国はイランとの核合意を志向するが、イスラエルは単独で攻撃を行い、両国間の不一致が明らかとなる)
(3)イスラエルによる単独攻撃シナリオ(イスラエルが、暗黙の了解を米国から得た上で単独で攻撃を行う)
(4)サウジアラビアによる米国懐柔シナリオ(地域の不安定化をおそれるサウジが米国への投資を行う見返りに、いかなるイラン攻撃もやめさせる)