円安・インフレ・トランプ2.0の三重苦

 防衛増税にはインフレと円安という2つの困難にも直面しています。

 岸田政権が防衛費の増額を決定した2022年以降、円安や物価高が進み、装備品の価格は上昇しています。計画時の想定為替レートは1ドル=108円でしたが、その後、円相場は下落を続け、1ドル=150円台に。そうした結果、43兆円を確保したはずの防衛費は、計画策定時に比べておよそ3割も目減りしたのです。

 そこに物価高も加わったことで、例えば、計画策定時に1機あたり224億円とされた国産の「P1哨戒機」は2024年度に345億円、2025年度予算案では421億円へと急上昇しました。米国から導入する最新鋭戦闘機「F35A」は、当初の116億円から2025年度には156億円に値上がりする見込みです。

日米首脳会談後の記者会見。今後、トランプ米大統領が日本への防衛費増額を求めてくるのは避けられそうにない(写真:AP/アフロ)

 こうした結果、当初の計画である「5年間で43兆円」という防衛費では、目標通りの装備品を調達できない可能性が高まっています。

 さらに発足したばかりの米トランプ政権が、日本にさらなる防衛費の増大を求めてくることも予想されています。

 トランプ氏はかねてから、米軍が他国を防衛する場合、その国はコストをもっと負担すべきだとの考えを繰り返してきました。2月7日に米国で行われた石破茂首相とトランプ氏の日米首脳会談では、米側から防衛費の増額要求はなかったと石破氏は説明しています。

 ただ、日米共同声明は「2027年度以降も抜本的に(日本の)防衛力を強化していく」と明記。東アジア地域の安全を確保するために、日本にさらなる負担を求める姿勢は変わっていません。

 物価高や伸び悩む賃金、増えない手取り……。日本の労働者の暮らしは一向に上向きません。そして「手取りを増やす」というスローガンを掲げた野党は勢いを増しています。

 中国の海洋進出や北朝鮮の核・ミサイル開発などが止まらず、日本の安全保障環境は不安定さが増していますが、だからといって、国民の生活苦が続く現状では、増税による防衛力強化が無条件で受け入れられる状況でもありません。

 防衛と増税をめぐる最適解は果たしてどこにあるのでしょうか。

フロントラインプレス
「誰も知らない世界を 誰もが知る世界に」を掲げる取材記者グループ(代表=高田昌幸・東京都市大学メディア情報学部教授)。2019年に合同会社を設立し、正式に発足。調査報道や手触り感のあるルポを軸に、新しいかたちでニュースを世に送り出す。取材記者や写真家、研究者ら約30人が参加。調査報道については主に「スローニュース」で、ルポや深掘り記事は主に「Yahoo!ニュース オリジナル特集」で発表。その他、東洋経済オンラインなど国内主要メディアでも記事を発表している。