次の利上げを決める米国の利下げ回数と為替動向
簡易説明資料の最後には、「見通しが実現していくとすれば、それに応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整」と明記してある。「今後も利上げはある」という意思表示が一般向けにも発信される状況であり、必然的に市場の関心は「次はいつか」に移る。
今回の「展望レポート」における物価見通しの上昇修正はエネルギー補助金やコメ価格上昇など特殊要因であり、そこに想定外の円売りも重なったという意味で「一時的なコストプッシュ要因が大きくなった」ことに起因している。
それゆえ、今回の見通し上方修正によって積極的な利上げが要求されるわけではない。実際、本稿執筆時点の金融市場では0.75%への追加利上げは10月会合まで織り込まれていない。
植田総裁も「(物価の見通しは)今年の半ばくらいまでの上方修正で、その後は落ち着いてくるものとみている。深刻なビハインド・ザ・カーブの状況にあるとは今のところ見ていない」と述べており、利上げの必要性が上半期中に収束してくる可能性も示唆される。
ただ、身も蓋もないが、現状維持を貫けるかどうかは結局、為替次第だろう。
今回はそうではなかったが、昨年7月のように円売りで利上げを煽られるという懸念は常にある。声明文には「このところの為替円安等に伴う輸入物価の上振れもあって、2024年度が2%台後半となったあと、2025年度も2%台半ばとなる見通し」と記述されており、これが政策変更の一因となった背景が透ける。
極端な話、次回3月会合時点で170円台に接近していれば、「為替円安等に伴う輸入物価の上振れ」を懸念した上で、金融市場における利上げ織り込みも機動的に変化してくるはずである。
真の問題は、当面のFOMC(米連邦公開市場委員会)が現状維持を重ねた上で、「利下げの終わり」を明示するような展開に至ったときに、どれほど円安が進み、それが輸入物価経由で一般物価を押し上げるのかに尽きる。
現時点では、年内いっぱいをかけて日米の政策金利は▲60bpほどしか縮小しない想定だが、これはFRB(米連邦準備理事会)が「2回も利下げできない(織り込みは1.6回程度)」という想定に基づいている(図表④)。
【図表④】
これが「1回も利下げできない」「2026年は利上げ再開も」といった予想に変わると当然、ドル/円相場が押し上げられる要因になる。この時、日銀は利上げで金利差を縮め、円安抑止を図ろうとするだろうが、これはもはや先進国ではなく途上国で定番の仕草である。徐々に、しかし確実に金融政策の通貨政策化が進みつつあるように感じられる。
いずれにせよ、植田総裁が会見で述べた「ペースやタイミングについては今後の経済・金融情勢次第と考えており、予断は持っていない」との弁はタカ・ハト双方に受け止めるべきであり、最近の金利・為替情勢を踏まえれば、思わぬタカ派シフトにも警戒を怠るべきではない。
※寄稿はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です。また、2025年1月27日時点の分析です
唐鎌大輔(からかま・だいすけ)
みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト
2004年慶応義塾大学卒業後、日本貿易振興機構(JETRO)入構。日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局(ベルギー)に出向し、「EU経済見通し」の作成やユーロ導入10周年記念論文の執筆などに携わった。2008年10月から、みずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)で為替市場を中心とする経済・金融分析を担当。著書に『欧州リスク―日本化・円化・日銀化』(2014年、東洋経済新報社)、『ECB 欧州中央銀行:組織、戦略から銀行監督まで』(2017年、東洋経済新報社)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(2022年、日経BP 日本経済新聞出版)。