中東の「地政学プレミアム」はげ落ち原油価格は急落?
「今年の原油価格は下落する可能性が高い」との予想が高まる中、中東情勢の緊張緩和もOPECプラスにとって痛しかゆしだろう。
イスラエルとイスラム組織ハマスは15日、パレスチナ自治区ガザでの戦闘停止で合意した。停戦は19日に発効し、3段階で実施されることになっている。
合意が成立したものの、予断を許さない状況が続いている。
筆者が注目しているのはイエメンの親イラン武装組織フーシ派の動きだ。フーシ派はパレスチナ人との連帯を示すため、昨年11月からイエメン沿岸付近の海域で船舶を攻撃し続けている。イランが築いた「抵抗の枢軸」勢力の中で唯一気を吐いている。
フーシ派の指導者は16日「停戦発効までの3日間、我々はパレスチナの情勢を監視する。イスラエルによる虐殺が続くなら作戦を継続する」と述べた。
「フーシ派が船舶を標的にした攻撃を停止する」との観測から、原油価格は一時2ドル超下落した。市場は中東情勢の緊迫化にあまり反応しなくなっていたが、緊張緩和には敏感に反応するようだ。
中東情勢緊迫化の大本の要因であるガザでの戦闘が停止されれば、昨年10月以降の地政学プレミアムが剥落し、原油価格が急落する可能性は十分にある。
そうなれば、OPECプラスは増産どころか、さらなる減産に追い込まれてしまうだろう。
だが、中東情勢の緊張が続くことも避けなければならない。
フーシ派が再びサウジアラビアを攻撃したり、影響力が低下したイランが核兵器開発に踏み切ったりする事態が現実味を帯びてしまうからだ。
世界の原油市場の安定を担うOPECプラスの苦悩は今後、ますます深まっていくだろうか。
藤 和彦(ふじ・かずひこ)経済産業研究所コンサルティング・フェロー
1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(エコノミック・インテリジェンス担当)。2016年から現職。著書に『日露エネルギー同盟』『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』ほか多数。