
2023年10月から原油価格を下支えしてきた中東リスクが緩和する見通しが出てきた。イスラム組織ハマスとイスラエルがガザでの戦闘停止で合意したからだ。ところが、原油市場の反応は薄く、関心はむしろ米欧がロシアに課した制裁にある。ロシアが制裁逃れに使っている「影の船団」と呼ばれるタンカー群などへの締め付けを強化するもので、ロシア産原油の供給網に混乱が生じるとの見方がある。ロシアへの制裁とガザ停戦は、原油市場にどんな影響を及ぼすか。
(藤 和彦:経済産業研究所コンサルティング・フェロー)
米WTI原油先物価格(原油価格)は今週に入り、1バレル=77ドルから81ドルの間で推移している。15日には一時80ドルを超え、昨年8月以来5カ月ぶりの高値を付けた。
「ロシアへの追加制裁で需給が引き締まる」の観測から買いが優勢になっている。
まず、いつものように世界の原油市場の需給を巡る動きを確認しておきたい。
米英両政府は10日、ロシアの原油・天然ガス収入を標的とする大規模な制裁措置を発動した。対象はロシア石油大手のガスプロムネフチとスルグトネフチガスに加え、制裁逃れに使われている「影の船団」と呼ばれるタンカー183隻やロシアの保険企業などだ。
市場の混乱を避けるため、制裁の発動は3月12日まで猶予するとしている。
ゴールドマン・サックスの分析によれば、制裁対象の船舶は日量170万バレルの原油を運送しており、ロシアの海上輸出量の42%、全輸出量の25%に相当する。
バイデン政権は国内のガソリン価格の上昇を避けるため、ロシアへの制裁について慎重に対処してきたが、後顧の憂いがなくなった退任間際になって、これまでで最も厳しい制裁を科した形だ
この事態に慌てたのがロシア産原油の大口顧客である中国とインドだ。