生成AIの力で言語が失われるのを防ぐ、そんな研究が始まっている(筆者がGlokで生成)生成AIの力で言語が失われるのを防ぐ、そんな研究が始まっている(筆者がGlokで生成)

 ビジネスや社会での実装が始まっている生成AI。導入を巡ってはいろいろと問題も起きているが、生成AIが存在しているがゆえに守られている部分もある。それは、消滅危機言語である。言語の保護という分野で、AIはどのように活用されているのだろうか。(小林 啓倫:経営コンサルタント)

 新春なので、今回は少し夢のある話をしてみたい。

 いま急速な進化を続けているAIについて、さまざまな問題点が生まれていることについては、本連載において数多く取り上げてきた。また、これまで人間にしかできなかった作業がAIに置き換えられるようになったことで、これから多くの仕事が消えていくと懸念されている。

 しかし逆に、AIによって守られるものがあるとしたらどうだろうか?そんな「AIが保護するもの」のひとつとして、新たに注目されているのが、「消滅危機言語(Endangered language)」である。

 消滅危機言語とは、ごく少数の人々にしか使われていない言語のことで、文字通り消滅の危機に瀕しているものを指す。かつては一定の使用者がいたものの、何らかの理由でそれを母語とする人々が減ることで、その存続が危うくなっているわけだ。

 ユネスコが2010年に発表した“Atlas of the World’s Languages in Danger”(危機に瀕する世界の言語の地図)の第3版によれば、約2500言語が消滅のリスクにさらされているという。この発表から15年が経過した現在では、そのうちのいくつかは既に消滅していたり、また新たな言語が消滅危機言語の仲間入りをしていたりすることが考えられる。

 日本にも消滅危機言語があり、同発表によれば、8つの言語が国内に存在している(詳しくは文化庁によるまとめを参照)。特に北海道のアイヌ語は、ユネスコが定めた危機の6段階の上から2つ目に当たる「極めて深刻」な言語に分類されている。

 ちなみに、その上は「絶滅」言語(「1950年以降に話者が確認されていない」ものと定義されている)であるため、実質的にもっとも深刻度が高い言語に位置づけられている。