1秒をけずりだした鉄紺のアンカー
4校によるシード権をかけたアンカー決戦。東洋大の10区薄根大河(2年)の心臓は走る前からバクバクしていた。ラスト勝負は「まったく自信がなかった」からだ。そして恐怖心と戦っていた。
「追いつかれた時点でずっと怖かったんです。自分のなかで5kmぐらいからずっときつくて、もしかしたらシード権を落とすんじゃないかなという思いが頭のなかを過りました。でも『その1秒をけずりだせ』というチームスピリットと、4年生が大手町のゴールで待っていると思うと、最後は1秒をけずりだすことができました」
ラストが弱い男の渾身のスパートが炸裂。帝京大を突き放して、総合9位でゴールに駆け込んだ。
「本当に意地ですね。絶対に負けないと思って走りましたから。安心できたのはゴールしてからです。4年生の『ありがとう!』という言葉を聞いて、ホッとしました」
エース不在の窮地を乗り越えた
前回まで19年連続でシード権を獲得してきた東洋大だが、今回は窮地に追い込まれていた。エース格の石田洸介(4年)がアキレス腱を痛めたため出場が難しくなると、2区に登録していた梅崎蓮(4年)も12月末に突発性のアキレス腱痛が発生。酒井監督は「途中でリタイアもあり得るかもしれない」と前回2区で8人抜きを演じた主将を外す決断を下したのだ。
急遽、1~3区の選手を入れ替える苦しいオーダーになった。2区の緒方澪那斗(3年)で19位に沈み、暗雲が垂れ込めたが、鉄紺が意地を見せる。当初復路に起用予定だった3区の迎暖人(1年)が区間8位と好走。さらに前回10区区間賞の岸本遼太郎(3年)が4区を区間3位と快走して、15位から9位まで順位を押し上げたのだ。5区の宮崎優(1年)も踏ん張り、9位を死守して往路を折り返した。
「2区が変わると、本当はバタバタ崩れてしまうのですが、急遽、変更した選手たちがよくシード圏内で持ってきてくれたと思います」と酒井監督は往路の選手たちを称えた。さらに復路も粘りの継走を披露する。
7区の内堀勇(1年)で12位に転落するも、8区の網本佳悟(3年)が区間2位と踏ん張り、9位に押し戻す。そして9区の吉田周(4年)で8位に浮上した。アンカー決戦でどうにか総合9位を確保して、継続中の記録としては最長となる“20年連続シード”を獲得した。
「20年連続シードを確保できた安堵感はありますが、シード権のラインが非常に高くなっています。今回は4区の岸本、8区の網本。ふたりが区間3番、同2番で順位を上げてくれたのが良かった。シード権を取るレベルになると大きなブレーキが少ないので、区間賞に近い走りがないと大きく順位を上げられません。そういう快走を導いていけるように、チームを進化させなければいけないと感じましたね」(酒井監督)
実際、どれぐらいハイレベルだったのか。今回は11位の順大が10時間55分05秒。このタイムは過去3大会でいえば5位相当になる。“高速化”が進む箱根駅伝。東洋大の“連続シード”が強烈な輝きを放つようになってきた。