タントラとは何か

 ヒンドゥー教、ジャイナ教、後期密教やヨーガの技法で秘教的なヨーガから発展したタントラ思想の概念は、生理学的な宇宙生成論と結びついている。

 タントラとは、サンスクリット語で知識を広げる、拡張するといった意味があり、覚醒や昇華、悟りなど、高次元への精神的な超越を表す言葉だ。

 仏教経典としては後期密教経典群、いわゆる無上瑜伽タントラに分類される『秘密集会タントラ』(8世紀頃)や、最後期の密教経典『ダーカールナヴァ・タントラ』(9世紀頃)。

 ヒンドゥー系の経典では、『ルドラヤーマラ』(11世紀頃)、『ブラフマヤーマラ』(12世紀頃)など膨大なタントラ系経典が著されており、それらは哲学や神話伝承、宗教の経典とは一線を画した秘教めいた存在として捉えられている。

 それはタントラ思想には、一般的なヒンドゥー教や仏教が目指す「覚醒」「悟り」といった概念にはない、もう一つの叡智が含まれているからである。

 タントラの目指す覚醒、そこに至る本質に欠かせないのは「性エネルギー」である。

 性愛行為によってもたらされる官能的恍惚は、神と人間との合一に結びつくものとしてセックスは宗教的に転化され、エクスタシーは歓喜の概念として重んじられている。

 官能的惑乱と恍惚感は、排泄的な性行為のみにもたらされるものではなく、神に対する愛が深ければ深いほど、その悦びは宗教的恍惚に至高され、神秘化され聖別されることで、より深い法悦となるというのだ。

タントラが説く女性の心得

 マヌ法典には、女性のあるべき心得をこう示唆している。

「女性は娘たるもの、妻たるものは常に蜜を含んだ言葉で、男に夫に接しなければならぬ」

「また、夫たるものは常に己の妻のみにて満足し、妻に親近すべく、かつ、彼女を喜ばさんと務め、何日にても性交の欲望を持って彼女に親接すべし」

「もし妻にして美に輝かざれば、その夫を喜ばすことなかるべして、而して、もし夫にして喜ばざれば、子孫生まれざるべし」

「されど妻にして美に輝ける時は、家族はことごとく輝き、而し、もし妻にして美に輝かざる時は、家族はことごとく輝くことなし」

 女性はその生来の天生資質である優しさ、美しさを、より積極性を持って、そしてその性力的な媚惑をもってバラモン(司祭階級)およびクシャトリア(王族・武士階級)の妻たるものは夫に接することが義務である、と説いている。

 古代人にとって生殖行為は常に不可知であり、その官能の恍惚は神秘現象と捉えられ、厳粛な生命現象として考察されていたのだ。

 タントラ思想では、古来より生命エネルギーの根源である「性エネルギー」をいかに昇華させるかが、解脱を目指す修行者たちの課題であった。

 その理由は爆発的な生命エネルギーである性の力を昇華させることによって、神へと至る道であるという。