習近平指導部がウイグル族への抑圧政策を強めたのは2014年とされている。米紙ニューヨーク・タイムズが2019年に報じた中国政府の内部文書によると、2014年に自治区で暴動が起きた後、習近平氏が「テロや分離主義に対抗する」として基本方針を策定し、締め付けに拍車が掛かった。

 中国政府は過激思想を取り除く名目で自治区に「職業技能教育訓練センター」を設置。前述の通り、国連人種差別撤廃委員会の報告書は100万人以上のウイグル族が強制収容されたと推計している。

 新疆トップの自治区共産党委員会書記にチベット自治区で分離・独立運動を封じ込めた陳全国氏(1955〜)が就任した2016年以降、統制がさらに強まったと言われている。不妊処置の増加と時期が重なる。

新疆での不妊手術は「貧困対策」とされていたが…

 中国では、人口増加に伴う資源不足に対応するため「一人っ子政策」が続いた期間も、特例として、少数民族は都市部で2人、農村部で3人までの出産が認められていた。

 ただ、新疆では不妊手術など「長期的な出生抑制処置」を受けた少数民族の夫婦に「計画出生父母光栄証」(子を2人もうけた後に処置)や「一人っ子父母光栄証」(子を1人もうけた後に処置)を授与。年金を支給したり、子どもの大学受験の際に加点したりする政策が推進された。

 こうした施策は、多産なウイグル族の「貧困対策」が理由と説明されている。しかし、新疆ウイグル自治区共産党委員会のシンクタンク、新疆社会科学院の李暁霞民族研究所長が執筆した論文を読んだ私は、そこに「貧困対策」とはかけ離れた指摘があることに気付いた。

「新疆の人口問題と人口政策分析」と題する論文は「自治区の人口増加で最も懸念される問題は、少数民族の人口が急増し、漢族の人口が伸び悩んで格差が広がっていること」と分析。少数民族と漢族の人口差が広がることで「単一民族の領土所有意識が強まり、国家や中華民族としてのアイデンティティーが弱まっている」「少数民族の人口増加率を抑制し、人口構造を調整することは新疆の長期的安定を実現するための重要な道筋」と強調していたのだ。