中国政府の「不都合な事実」を1面で報道

 私は統計資料から浮かび上がった事実を記事にまとめた。そして北京冬季五輪開幕までちょうど1年の2021年2月4日、西日本新聞の朝刊1面などで報じた。その後も帰国まで取材を重ね、さまざまな続報を出した。

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ウイグル族ら10万人不妊手術 中国強制?5年で18倍」(西日本新聞電子版、2021年2月4日)

 ウイグル族が人口の9割超を占めるカシュガル、ホータン両地区の当局がまとめた統計資料で、カシュガル地区では2017年から2019年にかけて人口増加率(人口千人当たり。移住を除く)が約100分の1に激減したこと。ホータン地区では、少数民族の人口増加率が年々下がる一方で、現地では少数派の漢族は上昇し、2017年には漢族の人口増加率が少数民族を上回る「逆転現象」が起きたこと。2019年時点で、両地区では人口増加率がゼロに近づいたことなどを特報した。

 なぜ、中国政府にとって「不都合な事実」とも言えるこれらのデータが公開されていたのだろうか。明確な理由は分からない。ただ、「中国は国益より党益の国」(北京の外交筋)と言われる。党中央に対して地方政府や担当部署が自分たちの成果を誇るために、これらの数値を公式統計に記録していたものと想像はできる。

 その証拠に、ここ数年でウイグル問題が国際社会で取り沙汰されるようになったせいか、2018年ごろから、不妊手術や中絶などについての項目そのものが年鑑に記載されなくなってきた。私自身も当局の統計データを使った調査報道をすればするほど、関連する統計が翌年から公開されなくなる体験をし、ジレンマを感じながらも、追及を続けた。

 不妊措置件数の急増と出生率急減について、新疆の自治区政府に直接質問できる機会があった。自治区政府幹部は出生率半減については「どこのデータか分からない」とした上で「家族計画政策が成果を挙げており、人々は自らの意思でIUD装着や不妊手術を受けている」と説明した。私は、IUD装着者に占める既婚女性の割合や、不妊手術件数の民族・年齢別データの開示を求めたが、回答はないままだった。

三国志を歩く 中国を知る』(坂本信博著、西日本新聞社)