データが示す不妊手術、人工妊娠中絶、子宮内避妊具(IUD)装着…

 そうだ、この統計年鑑のように当局自らが公表したオープンデータを入手すればいい。日本でもジャーナリストが情報公開制度を使うのは、政府の方から出た資料を基にすれば、政府が言い逃れできないからだ。自らが公表している統計を使えば、中国政府も認めざるを得ないのではないか。

 そこから徹底的に統計データを探すことにした。見つかったのは、中国全土のものとして「中国人口和就業統計年鑑」と「中国衛生健康統計年鑑」。さらに、新疆ウイグル自治区政府の統計として「新疆統計年鑑」も。関連する統計資料の過去30年分を入手することができた。

 最初は人口の移動や増減のデータから何か見えないかと考えたが、なかなかうまくいかなかった。何か手がかりになるデータはないのか…。新疆の年鑑を見ていた時、こんな文字が目に入ってきた。

「各地、州、市计划生育及領収情况」

 日本語にすると、「地域・州・市別の家族計画と証明書の取得状況」という意味になる。家族計画…これだ。女性の卵管や男性の精管を縛る不妊手術や人工妊娠中絶、子宮内避妊具(IUD)装着などに関するデータが存在していたのだ。

 当時は中国政府が産児制限「二人っ子政策」を続けていたため、全国版の年鑑でも「各地区采用各种节育措施人数」(地区別の各種避妊措置者数)、「计划生育手术情况」(家族計画手術状況)を見つけることができた。

中国統計年鑑にはさまざまな統計データが記載されていた

 そこからは力仕事だった。入手した資料をパソコンに入力して、分析する必要がある。日々の取材の合間や休日に、膨大なデータを表計算ソフトにひたすら入力する作業を続けた。中国全体や新疆の数字はもちろん、新疆以外の地域の傾向を把握するために、中国の全31 省・自治区・直轄市のデータも入力していった。