1990年代以降、独立運動が活発化し「東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)」などによるテロが頻発。2009年には区都ウルムチで大規模暴動が発生し、中国政府は過激主義によるテロとして監視を強めた。

 2014年に習近平国家主席(中国共産党総書記)が視察に訪れた時にも自爆テロが発生。テロ対策や職業訓練を名目として、多数のウイグル族の「再教育施設」への収容が始まり、国連人種差別撤廃委員会は2018年、最大100万人以上のウイグル族などが「思想改造」のための施設に収容されたと報告した。

突然訪ねてきた見知らぬ男の正体

 2020年秋、北京。

 特派員として中国に赴任して1カ月余りが過ぎ、私は官庁街にある西日本新聞社中国総局の小さなオフィスを根城にして取材活動を始めていた。日本で多少は勉強してきたとはいえ、まだ中国語は十分に聞き取れない。中国人スタッフの手を借りて、2日に1本のペースで「コロナ禍の中国」などをテーマにした記事を書き、日本に送っていた。

 私にはどうしても取材したいテーマがあった。新疆ウイグル自治区のことだ。「人権弾圧が行われている」と欧米のメディアが指摘しているが、なんとしてもその実態を自分の目で確かめたい。タイミングを見計らって現地に入ろうと考えていたが、新型コロナ対策の移動制限などで、果たせずにいた。

 そんなある日、オフィスに突然、男が現れた。見たことがない顔だ。そもそも日本の新聞社のオフィスをわざわざ向こうから訪ねてくる人物など、着任してからは初めてだった。

 一体、何者なんだ——。

 50代半ばくらいに見える背の高い男だ。

「ちょっといいですか」というようなことを言いながら、さも当然であるかのような様子でオフィスに入ってきた。当時はまだ早口の中国語が十分に理解できず、慌ててスタッフに問い合わせる。