2.戦争抑止の要素:日米間の相互信頼

 そうした日本人の意識とは裏腹に、世界では今も戦争が続いている。

 ウクライナやガザで一般市民の命が日々奪われている。

 その映像は世界中に配信され、多くの人々がその悲惨な光景を見て悲しむと同時に戦争という手段に訴える非人道的行為を許すべきではないと受け止めている。

 最近の通信技術の発達によって、以前に比べて格段に情報の共有化が進み、戦争の悲惨さや残酷さが生々しく認識されるようになっている。

 これを見れば自分から戦争に向かいたいと思う若者の数は世界各国で減少するのが自然であるように思われる。

 それでも今はまだ、そうした意識の変化はあまり広がっていないように見える。

 ではどうすれば戦争を防ぐことができるだろうか。

 日米中関係を見ると、そこに一つのヒントがあるように思われる。

 現在の米中関係は戦後最悪と言っても過言ではない。もし100年前にこの状況に陥っていれば、米中両国が武力衝突を始める可能性は極めて高いように思われる。

 しかし、今のところ、米国人も中国人も互いに戦争を仕掛けようと考える人はほとんどいない。

 両国とも大量核兵器保有国であるため、核の抑止力が働いていることが大きな要因の一つである。

 両国の国民が戦争を考えない理由はそれだけではないように思われる。

 1980年代から90年代にかけて、日本経済が急速に台頭した時、日米関係も現在の米中関係に近いほど関係が悪化したが、やはり戦争を考える人はいなかった。

 当時の日米両国の経済力格差は太平洋戦争開戦時よりかなり縮小していた。確かに日本は日米安全保障条約を安全保障の土台にして、米国の核の傘によって守られることを国家防衛の要と考えていた。

 しかし、それは日本人がそう信じていたことが大きく影響している。

 仮に日本が自国防衛を米国に依存せず、自力で確保するべきだと考えれば、日米安全保障条約が存在していたとしても、決定的な抑止力にはならなかったはずである。

 それでも日本人は日米関係は盤石であり、日本は米国によって守られていると漠然と信じていた。

 その米国に対する信頼の背景は、多くの日本人が多くの米国人との間に築いた相互交流を通じた相互理解、相互信頼であると考えられる。