共同通信社が日韓外交に多大な影響を及ぼす誤報を配信し、大問題になっている。2022年8月の終戦の日、自民党の生稲晃子参議院議員が実際には靖国神社を参拝していなかったにもかかわらず、「参拝した」と断定して報道した。当時は大きな問題にならなかったものの、生稲氏が外務政務官に就任した後の今年11月、世界文化遺産「佐渡島(さど)の金山」をめぐる式典に韓国側が欠席。「靖国を参拝した生稲氏の出席する式典に同席できない」などの理由だったとされ、問題が一気に拡大したのだ。
なぜ、このとんでもない誤報が起きたのか。JBpress編集部が入手した共同通信社が加盟各社宛に出した謝罪・経緯説明の文書を見ていくと、穴だらけの取材過程が浮き彫りになった。
日韓融和のイベントが一転
問題の発端となったのは、この11月24日に開かれた世界文化遺産「佐渡島(さど)の金山」の労働者追悼式典だった。
金山を国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)の世界文化遺産に登録することに関しては、朝鮮半島出身者を含むすべての鉱山労働者の追悼行事を毎年現地で行うことで日韓両政府が合意し、韓国が登録に同意した経緯。そして金山は今年7月に世界文化遺産に登録され、初回の追悼行事を11月24日に実施する運びとなっていた。
開催2日前の11月22日、日本外務省が生稲晃子外務政務官の出席を発表すると、韓国外交省は翌日23日、「諸般の事情を考慮した」結果として、韓国側の不参加を表明した。日韓融和を図る目的もあった追悼行事が、開催前日に“ドタキャン”を食らったのである。
報道によると、韓国政府内では生稲氏が2022年に靖国神社を参拝したことが問題視され、韓国世論に悪影響を及ぼすことを懸念して出席を見送ったという。
ところが、生稲氏は「自分は靖国に行っていない」と参拝の事実を強く否定した。それを受けて共同通信社が改めて当時の取材内容を検証したところ、2022年当時の報道が間違っていたことを確認し、誤報の事実を公表した。また、金山の追悼式典に韓国側が参加を見送ったことを報じる今月22日ごろの複数の記事でも、2022年当時の報道に依拠し、生稲氏はかつて靖国参拝した事実があると断定的に報じていた。
この事態を受け、林芳正官房長官は11月26日の会見で、「事実に基づかない報道がなされた。また『佐渡島の金山』追悼式について誤った報道が混乱を生ぜしめたと、認識しており、極めて遺憾」と表明。共同通信社に対し、事実関係や経緯の説明を求める考えを示している。