紫式部の夫・藤原宣孝が娘に「賢子」と名付けた理由

 一方、まひろ(紫式部)は無事に女の子を出産。赤ん坊を抱っこしながら、子守唄代わりに漢詩を聴かせる場面があった。

 これには乳母も「まだ早いと存じますが」といってあきれ顔。「いいのよ、子守歌代わりに聞いていれば、いつの間にか覚えてしまうもの」とまひろが言っても、乳母は「姫様でございますけれども……」と戸惑いをあらわにしている。

 かつて幼い式部の才女ぶりに、父の為時(ためとき)が「惜しう。男子にて持たらぬこそ幸ひなかりけれ(つくづく残念だ。この子が男子でないとは、なんと私は不運なんだろう)」と嘆いたように、「女性に教養など必要ない」という見方が一層強い時代。

 それだけに、夫の藤原宣孝(のぶたか)が仕事から帰ってきて、母のように賢くなるだろうと「賢子」(かたこ)と名付けてくれたのは、まひろも嬉しかったことだろう。

 だが、やがてこの結婚生活も宣孝の死で終わりを迎えることになる。夫を亡くした失意の中、式部が書き始めたのが『源氏物語』だとされている。次回予告を見る限りでは、とうとう長編物語に着手することになりそうだ。どんなシーンになるのか楽しみである。

 道長はといえば、過労がたたってか一時倒れて危ない状態に陥っていたが、無事に復活。意識を取り戻すときに脳裏で見たのは、まひろの姿だった。これからどんなプロセスを経て、まひろは道長の娘で、一条天皇の中宮である彰子のもとに仕えることになるのだろうか。

 次回の放送タイトルは「母として」。賢子の母であるまひろ、そして一条天皇の母である詮子がクローズアップされることになりそうだ。

【参考文献】
『新潮日本古典集成〈新装版〉紫式部日記 紫式部集』(山本利達校注、新潮社)
『藤原道長「御堂関白記」全現代語訳』(倉本一宏訳、講談社学術文庫)『藤原行成「権記」全現代語訳』(倉本一宏訳、講談社学術文庫)
『現代語訳 小右記』(倉本一宏編、吉川弘文館)
『紫式部』(今井源衛著、吉川弘文館)
『藤原道長』(山中裕著、吉川弘文館)
『紫式部と藤原道長』(倉本一宏著、講談社現代新書)
『偉人名言迷言事典』(真山知幸著、笠間書院)

【真山知幸(まやま・ともゆき)】
著述家、偉人研究家。1979年、兵庫県生まれ。2002年、同志社大学法学部法律学科卒業。上京後、業界誌出版社の編集長を経て、2020年より独立。偉人や名言の研究を行い、『偉人名言迷言事典』『泣ける日本史』『天才を育てた親はどんな言葉をかけていたか?』など著作50冊以上。『ざんねんな偉人伝』『ざんねんな歴史人物』は計20万部を突破しベストセラーとなった。名古屋外国語大学現代国際学特殊講義、宮崎大学公開講座などでの講師活動も行う。徳川慶喜や渋沢栄一をテーマにした連載で「東洋経済オンラインアワード2021」のニューウェーブ賞を受賞。最新刊は『偉人メシ伝』『あの偉人は、人生の壁をどう乗り越えてきたのか』『日本史の13人の怖いお母さん』『文豪が愛した文豪』『逃げまくった文豪たち 嫌なことがあったら逃げたらいいよ』『賢者に学ぶ、「心が折れない」生き方』『「神回答大全」人生のピンチを乗り切る著名人の最強アンサー』など。