【配偶者手当に関する壁】

「税金の壁」「社会保険の壁」に次いで問題となるのは、企業などが独自に設けている「配偶者手当に関する壁」です。

 日本では大企業を中心に扶養家族がいる場合に手当を支給してきました。「家族手当」「扶養手当」「配偶者手当」などの名称で呼ばれ、金額は企業によってさまざまです(中小・零細企業などでは、こうした手当を制度化していないケースもあります)。

 配偶者に対する手当はおおむね、配偶者の年収が一定水準以下であることを条件としています。多くの場合、配偶者の社会保険加入を目安にしており、配偶者の年収が106万円以下か130万円以下を支給の境目としているところが多くなっています。

 したがって、「社会保険の壁」を超えて働くと、企業の配偶者手当が打ち切られるケースも多く、世帯収入が減少する可能性が高くなります。

 ここまで見てきたように、配偶者(主に女性)が社会に出て働くためには、さまざまな「壁」が存在します。しかし、全体像を眺めてみると、こうした制度は「男が稼ぎ、女は家事を担う」という戦後日本を象徴する考え方に基づくものだったことがわかります。

 税金や社会保険の「壁」は、個人ではなく世帯を中心として制度設計された結果です。女性を家庭に閉じ込めて家事・育児を担わせるために、年収が一定額を超えると税制面で不利になるようにしたとも言えるでしょう。

 性別役割分業を前提に作られたこの制度は、戦後の高度経済成長期にほぼ出来上がり、経済成長最優先で突っ走ってきた日本社会を形作りました。いま、政界では「103万円の壁を見直して手取りを増やす」という案が前面に打ち出されていますが、女性の権利や社会進出を阻む他の制度なども含めて総合的な見直しを図らないと、せっかくの機運も政争の具となるだけかもしれません。

フロントラインプレス
「誰も知らない世界を 誰もが知る世界に」を掲げる取材記者グループ(代表=高田昌幸・東京都市大学メディア情報学部教授)。2019年に合同会社を設立し、正式に発足。調査報道や手触り感のあるルポを軸に、新しいかたちでニュースを世に送り出す。取材記者や写真家、研究者ら約30人が参加。調査報道については主に「スローニュース」で、ルポや深掘り記事は主に「Yahoo!ニュース オリジナル特集」で発表。その他、東洋経済オンラインなど国内主要メディアでも記事を発表している。