米国の民主主義は損なわれるのか
選挙戦終盤になって目立ったのは、「トランプ氏が当選したら、米国の民主主義が大きく損なわれるのではないか」という懸念です。
トランプ氏は2021年1月6日の米連邦議会議事堂襲撃事件を扇動したなど4件で起訴されています。このような状況で大統領選の候補として選挙戦に臨んでいること自体、米国の歴史上、異例のことです。
トランプ氏は大統領に就任した場合、側近を司法長官に任命し、起訴の取り下げを図るのではないかと取り沙汰されています。さらに、バイデン大統領とその家族に対する犯罪捜査を進めるなど、大統領権限を駆使して政治的に敵対する相手を排除する意向も示しています。
経済優先の立場から規制当局の独立性を弱め、政策決定に介入する構えを見せているほか、トランプ氏の側近の中からは特定のジャーナリストに対し、「裁判にかけて対処する」とけん制する声すら出ています。
トランプ氏が大統領だった当時、トランプ氏は分断を煽り、実際、米国社会では分断が一層進んだと言われました。黒人の人権を守るよう求める「ブラック・ライブズ・マター」の運動が広がりましたが、トランプ氏はこうした市民運動を制圧するために軍を出動させる可能性も示しました。
ただ、トランプ陣営は1期目に比べると、現在は政治経験の豊富な側近が多いと言われます。1期目はトランプ氏と対立した閣僚らが次々と辞任しましたが、2期目はよりスムーズな政権運営になるだろうと予想されています。
今回の大統領選は異例続きでした。
トランプ氏は7月、演説中に銃で撃たれ、銃弾が耳をかすめてけがをしました。9月にもトランプ氏暗殺未遂事件が起きています。秋には大統領候補の討論会が3回行われ、全米にテレビ中継されるのが通例ですが、ハリス氏とトランプ氏の討論会は9月に1度行われただけ。有権者は両候補の政策論争をもっと聞きたかったのではないでしょうか。
投票日が近づくにつれ、トランプ氏が大統領になれば独裁者になるという懸念も広がりました。トランプ氏は否定していますが、元側近が、トランプ氏はヒトラーを肯定したことがあると暴露し、「トランプ氏はファシストの定義に当てはまる」と語ったのです。不穏な動きは他にもあります。オレゴン州などでは郵便投票の投票箱が何者かによって燃やされ、票が灰になりました。民主主義の根幹をなす選挙が暴力によって公正さを失いかけているのです。
トランプ氏が大統領に就任した場合、こうした状況が改善されるのでしょうか。
西村 卓也(にしむら・たくや)
フリーランス記者。札幌市出身。早稲田大学卒業後、北海道新聞社へ。首相官邸キャップ、米ワシントン支局長、論説主幹などを歴任し、2023年からフリー。日本外国特派員協会会員。ワシントンの日本関連リサーチセンター“Asia Policy Point”シニアフェロー。「日本のいま」を世界に紹介するニュース&コメンタリー「J Update」(英文)を更新中。
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