オーストリア最西部、フォアアールベルク州の鉄道駅。同州の中心ラインタール地方の交通路の骨格をなしている。同州は最大都市でも人口5万人。大都市のない地方部ながら公共交通の交通手段分担率14%を実現している(写真:筆者撮影、以下同)

(柴山多佳児:ウィーン工科大学交通研究所 上席研究員)

山奥のバス路線で見かけた多彩な乗客

 今年の8月のことだが、オーストリアの東チロル地方で、夏休みの水曜日午後、山間部を走るバスに乗る機会があった。前回まで3回にわたって紹介したイタリアの南チロル地方に隣接する地域だ。

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 山奥の村を昼前に出発して、午後1時前に地域の中心都市リエンツに向かう、毎時一本のバスである。

 筆者が数えたところ、バスの座席は48席。始発の山奥の村を出るあたりですでに10人ほどが乗っていた。リエンツまで残り40分の町マトライで乗客の半分程度が入れ替わったが、そこを過ぎたあたりからさらに増え始め、最も多かった区間では31人が乗っていた。

 リエンツの専門医に通うという老婦人、遊びに行くらしきティーンエイジャー、トレッキング帰りと思しき人、休暇中と思われる赤ちゃん連れの家族。実に様々な人々が乗っている。

 日本の山奥のバス路線ではなかなか見られない多彩な乗客の光景である。バス路線のポテンシャルが見事に引き出されている。 

オーストリア山奥の路線バス車内。途中のフーベン集落は各路線の結節点になっている。全方面からのバスが同時に到着し、同時に発車するから、スムースに乗り換えができる

 本連載は5回目になるが、今回から、公共交通のポテンシャルをどう見抜くのか、ということを考えていきたい。しかしそもそも、なにをもって「公共交通のポテンシャル」といえばいいのだろうか。

 それを考えるには、公共交通がどんな側面を持っているかを考える必要がある。