イーロン・マスク氏はペンシルベニア州のトランプ陣営の選挙集会に登壇し、「100万ドルプレゼント」を打ち出した(写真:AP/アフロ)

米大統領選を目前に控え、トランプ前大統領を支援するイーロン・マスク氏の「毎日100万ドル」を有権者にプレゼントするという行為が波紋を広げている。すでに巨額の資金をトランプ陣営に提供しており、トランプ氏が勝利した場合の政治への介入を懸念する声も少なくない。マスク氏のような「メガドナー」の危うい影響力とは。

(楠 佳那子:フリー・テレビディレクター)

 米大統領選をめぐり、トランプ前大統領を支持する富豪のイーロン・マスク氏が打ち出した奇策が波紋を呼んでいる。選挙当日まで、毎日ランダムに選んだ1人に100万ドル(約1億5000万円)をプレゼントするというものだ。

 この企画を始めた10月19日から選挙日までの「賞金」の合計は1800万ドル。さながら「年末マスク宝くじ」の様相を呈するパフォーマンスだが、100万ドルの小切手を手にするには条件がある。マスク氏が立ち上げた、米国憲法における「言論の自由と武器所持の権利」の支持を誓約する請願書への署名と、ペンシルべニア、アリゾナ、ジョージアなど、激戦州で有権者登録を行うことだ。

 英ガーディアン紙は、請願書がトランプ氏の支持者に有権者登録を促しているようだとしている*1。米カリフォルニア大学・ロサンゼルス校で選挙資金などが専門のヘイセン教授はブログで、マスク氏による今回の「100万ドルばらまき作戦」が「明らかに違法」であると指摘している*2

*1Musk pledges $1m each day in apparent bid to galvanize Republican voters(The Guardian)
*2Elon Musk Veers Into Clearly Illegal Vote Buying, Offering $1 Million Per Day Lottery Prize Only to Registered Voters(ELECTION LAW BLOG)

 ヘイセン教授は違法性の根拠として「有権者登録(略)のために金銭を支払ったり支払いを申し出たり、受け取ったりした者は、1万ドル以下の罰金、または5年以下の懲役もしくはその両方に処せられる」という法律や、米司法省の選挙犯罪マニュアルにおいて「賄賂」に相当する項目の中に「宝くじの当選」が記されていることを示している。

 ペンシルべニア州のシャピロ知事も20日「非常に憂慮すべき事態」だとして、法的機関による調査が必要だと話した。

 マスク氏は今月中旬にも、トランプ氏を支持する特別政治活動委員会(スーパーPAC)の「アメリカPAC」に7500万ドルもの献金をしたことが明らかになっている。マスク氏がこれだけの資金をトランプ氏の再選に投じているのは、何が目的か。