「豊住線」開業、南北線延伸ほか新線計画の全貌
ホームドアの設置は時代の要請とはいえ、増収増益につながりにくい施策だけに民間の鉄道事業者が後回しにしてしまうことも理解できなくはない。また、そうした地味な施策より、どうしても目立つ施策に目が行きがちになる。特に新線建設は多くの耳目を集めるので、売却益を新線建設に使おうという構想もある。
前述したように、東京メトロの新線建設は2008年の副都心線開業で打ち止めになる予定だった。しかし、すでに2030年代の開業を目標に「豊洲駅―住吉駅間」の整備が進められ、住吉駅からは半蔵門線に乗り入れて錦糸町駅まで延伸することが内定している。同線は「豊住線」と呼ばれ、沿線では開業を前提にした都市開発も始まっている。
そして、その先の延伸構想もある。半蔵門線は墨田区に所在する押上駅が終点になっているが、東京都足立区や葛飾区、千葉県野田市などは押上駅から半蔵門線を延伸させて東武野田線の野田市駅までを結ぶ新線計画に熱を入れている。
野田市駅までの延伸計画とは別に途中駅として想定されている四ツ木駅(仮称)から分岐して常磐線の松戸駅までを結ぶ新線計画もあり、こちらも江東区・葛飾区・千葉県松戸市などが動きを見せている。
また、豊住線と並んで、東京メトロの新線計画として浮上しているのが、白金高輪駅から南北線を分岐させて品川駅へと延伸する路線だ。
南北線は2000年に溜池山王駅―目黒駅間が延伸開業したが、白金高輪駅―目黒駅間は都営三田線と同じルートを走っている。わざわざ南北線と都営三田線が同じルートを走る必要はない。
東京メトロは広大なネットワークを築きながらも、品川駅に乗り入れていない。近年、品川駅は羽田空港へのアクセス拠点として注目が集まっているほか、将来的にはリニア中央新幹線の発着駅にもなる。
白金高輪駅から品川駅までの延伸区間は約2.5kmしかないが、わずかな延伸で東京メトロが得られるメリットは大きい。同区間も豊住線と同じく2030年代までに開業する予定で計画が進んでいる。
東京メトロ株の売却益は、あくまでも東京都の収入になるので、必ずしも新線建設や設備改良に使う必要はない。
仮に鉄道の整備に限ったとしても、東京都は2022年に東京駅―東京ビッグサイトを結ぶ臨海地下鉄を2040年代までに開業させると明言したほか、多摩都市モノレールの北端に位置する上北台駅からJR八高線の箱根ケ崎駅までの延伸も2030年代半ばの開業目標を立てている。メトロ株の売却益を使って、これらの整備計画を前倒しすることも一案だろう。
これまで何度も延期されてきた東京メトロの上場だが、ようやく実現する見通しとなった。政府保有株式の新規上場は日本郵政以来となる大型案件だけに、今後の東京メトロの事業展開が注目されるところだ。
【小川 裕夫(おがわ・ひろお)】
フリーランスライター。1977年、静岡市生まれ。行政誌編集者を経て、フリーランスのライター・カメラマンに転身。各誌で取材・執筆・撮影を担当するほか、「東洋経済オンライン」「デイリー新潮」「NEWSポストセブン」といったネットニュース媒体にも寄稿。また、官邸で実施される内閣総理大臣会見には、史上初のフリーランスカメラマンとして参加。取材テーマは、旧内務省や旧鉄道省、総務省・国土交通省などが所管する地方自治・都市計画・都市開発・鉄道など。著書に『渋沢栄一と鉄道』(天夢人)、『東京王』(ぶんか社)、『全国私鉄特急の旅』(平凡社新書)、『封印された東京の謎』(彩図社文庫)、『路面電車の謎』(イースト新書Q)など。共著に『沿線格差』(SB新書)など多数。