資金、技術、産業、労働力の地方移転を狙う

 前出の鄺錦利は「ひと昔前と違って、今や前方だとか後方とかない時代だ。イーロン・マスクが5000トンものスターシップ『スーパーヘビー』を正確に箸(メカゴジラチョップスティックス)でキャッチする時代に、洞穴を掘削して三線建設をして意味があるのか。未だ脳内は第二次世界大戦時代のそろばんをはじいているのか」と批判していた。
 
 ただ「(仮想敵から)万が一攻撃された場合、沿岸の都市部の重要なハイテクパワーは打撃をうけ、致命傷を負うことを当局はずっと心配している」とも、鄺錦利は指摘していた。

 広東の1500社が四川に一斉移転、というのはフェイクニュースかもしれない。だが、習近平が現在の中心都市、大都市から資金、技術、産業、労働力を地方都市に移転しようという方針を持っているのは事実だろう。

 それが、西側社会との経済デカップリングに対応した新型内陸都市の形成を目的としているのか、経済的に落ち込む地方の地位を引きあげ地域間格差をなくすためなのか、管理しやすい社会主義的工業殖民都市を復活させようという魂胆なのか、あるいは大都市を嫌い、素朴な田園風景を愛する習近平の単なる趣味なのか。

 いずれにしろ、国際社会の中国に対する敵意や対立意識の先鋭化が背景にあり、その根底には戦争を念頭においた都市資源の再配置という考えがあろうと思われる。

 こうした戦争に備えた大規模な産業移転は、毛沢東以前もたびたびあった。清朝の康熙帝時代、沿海部の住民を一斉に内陸に50キロ移動させる海防政策があり、1928年の南京国民政府時代も大三線建設があった。