「新疆大開発」の号令も

 今年3月11日、北京で新疆産業支援就業工作会議が開催され、2024年から2026年の3年間に総額7000億元(約14兆7000億円)を新疆地域に集中投資することが中央企業に対して呼びかけられていた。これに先立って中国国務院は2023年10月、新彊を新たに自由貿易試験区に指定したうえで、投資の自由化・利便性向上の推進、貿易の利便性の水準向上、デジタル経済の推進、人民元決済の拡大、上海協力機構(SCO)や「中国・中央アジア5カ国」協力枠組みなどを通じた周辺国との協力強化など、8分野25項目にわたる措置を発表していた。

 当時、この「新疆大開発」の号令も、「三線建設」の再来だと噂された。この新疆大開発の狙いは、中国の経済、貿易が米国、日本からデカップリングされ、主要経済パートナーを中央アジアや東欧にシフトしていく動きの中で、製造拠点や産業チェーンの中心を広東や上海から新疆に移転していこうという狙いがある、といった見方があった。また、実質頓挫しかけている一帯一路戦略を立て直すためのプロジェクトという分析もあった。カナダの華人評論家、文昭はこの動きを三線建設に例えて解説していた。

 また、習近平は旧ソ連式の工業植民モデルの復活を考えているかもしれない、という見方もある。毛沢東時代の中国は、国有工場を建てると、労働者(ワーカー)を集め、宿舎から学校、幼稚園、病院、火葬場まで、ワーカーのためにすべての国有施設を建設・運営し、工場自体が一つの街を形成していた。

 市場経済化に伴いこうした工業植民モデルは消滅したが、習近平の政策は計画経済方向へと逆走する路線をとっていると思われている。実際、各地方政府には、コミュニティ(社区)の共産党支部が運営する安価な国営食堂(人民食堂モデル)の復活や、保障性住宅(住宅分配)など、社会主義的政策が指示されている。こうした工業殖民モデルは、重要産業とそれに付随する人民の暮し、コミュニティを、国有企業を通じて共産党が管理しやすいという側面がある。

 毛沢東の三線建設は失敗しており、また工業植民モデルも結果的に淘汰されてきた。習近平が同様の発想で、広東産業移転や新彊大開発を打ち出したとしたら、これらも挫折するのではないか、机上の空論の可能性がある、というのが大方の予測だ。