イタリア政財界が原発を切望するもう一つの理由

 産業振興の観点からも、メローニ政権は原発を再利用したいところだろう。

 メローニ政権は国内の雇用を維持するために、諸外国、特に中国からの直接投資に期待している。現にメローニ首相は、今年に入ってから比亜迪(BYD)などいくつかの中国の電気自動車(EV)メーカーにセールスを仕掛け、イタリア国内での生産を呼びかけた。

 メローニ政権は2023年7月、イタリア国内最大の完成車メーカー、フィアットなどを傘下に持つステランティスとの間で、70万台まで減少していた国内での完成車の年間生産台数を100万台に引き上げることで合意に達した。とはいえ、ステランティスは生産コストの関係から新興国での完成車生産を優先する方針を掲げている。

 工業品の生産には、人的資本や物的資本の質もさることながら、電力の安定供給が必須の条件だ。直接投資の受け入れを増やすにも、国内企業の海外流出を防ぐためにも電力供給の安定は不可欠だが、それを再エネとガス火力発電だけでは実現不可能という現実を明らかにしたのがロシアショックだった。

 それに、ロシアショックが生じなかったとしても、イタリアでエネルギー不足が常態化していたことは、その輸入依存度の高さから明らかである。ゆえに2011年、当時のベルルスコーニ政権は原発の再利用の是非を問う国民投票を実施したのだ。産業振興を重視するイタリアの政治家にとって、原発の再利用は悲願といっていいだろう。