科学的根拠のない美容法の横行によるリスク

 一般的な範囲での自己磨きは個人の自由といえよう。しかし、SNS上では科学的根拠に乏しい美容法が横行し、問題も浮上している。

 例えばTikTokを中心に話題の「フェイシャルガム」。噛み応えのある特殊なガムを長時間噛むことで、顎のラインがすっきりして顔痩せができるという。しかし、この効果に科学的根拠はないという。むしろ、顎の痛みや頭痛、顎関節症のリスクすらあると指摘されている。

 さらに「ボーン・スマッシング」と呼ばれる、ハンマーで顔を叩いて理想の顔に整形を試みるという過激な例も。骨折後に骨がきちんと本来の姿に戻らないまま固定されてしまう変形癒合を引き起こすリスクがあるとして、医師たちが警鐘を鳴らす事態となった。

「ルックス」を「最大化」する(写真:Koshiro K/Shutterstock.com)

美への執着がもたらす危険性と社会への影響

 ルックスマクシングへの過度な没頭は、メンタルヘルスにも悪影響を及ぼす可能性がある。多くの男性は「モテたい」という動機から始めるが、必ずしもその努力が報われるわけではない。むしろ自身の外見を否定することは、彼らに大きな自信喪失や欲求不満をもたらすことがある。

 過去にはアメリカ・カリフォルニア州で、モテないことへの欲求不満から銃乱射事件を起こした22歳の男性の例もある。自分がモテない(受け入れられない)ことへの欲求不満は、他者への怒りや攻撃に繋がる可能性もある。ルックスマクシングによる美への過剰な執着が、こうした犯罪を助長させるリスクも考えねばならない。

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 日本でも近年メンズコスメ市場が拡大しており、若い男性の美容への意識は確実に高まっている。自己を磨く努力自体に問題はないが、誤った美容法や美への過度な執着がもたらすリスクは、しっかりと認識しておく必要があるだろう。

 海外で広がるルックスマクシング。その波が日本にも押し寄せる可能性は十分にある。自己磨きと過剰な美の追求。その境界線を見極める目を持つことが、今後ますます重要になってくるに違いない。