少子化の危機感を強めているとみられるロシアのプーチン大統領(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

深刻な少子化問題に直面しているロシアで、日本の戦時中を思い起こさせる「産めよ増やせよ」の「特別人口作戦」が進行している。兵力増強がプーチン大統領の主な狙いとみられ、ウクライナとの戦争が続いていることも背景にある。ウクライナから子供たちを連れ去り、まるで「ミニ兵士」として訓練しているとの指摘ある。何が起きているのか。

(楠 佳那子:フリー・テレビディレクター)

 ジェンダー平等が叫ばれ、男女の賃金格差など女性蔑視を差別と認識する21世紀、このような日常が想像できるだろうか。

 ある「先進国」に生まれた少女は、小学5年生から中学3年生までの間に、子沢山の「大家族」を育むことこそが祖国の在り方であると徹底的に教育される。18歳という多感な年齢になると、少女は子供を産むことを考えるよう指導される。国から生殖能力検査を受けるように促され、能力が低いと判断されれば卵子凍結を行うことも勧められる。国は、1家族に7人以上の子供が望ましいと奨励し、10人以上子供を産んだ女性は「英雄」とされる。それを成し遂げた家族には、多額の報酬も与えられる――。

 これは第2次世界大戦のさなか、軍国主義であった当時の日本で「産めよ増やせよ」というスローガンのもと、兵力増強を目的として進められた人口政策のことではない*1。現在、ウクライナ侵攻を続けるロシアで活発化している「特別人口作戦」のことだ。

*1歴史から学ぶ ― 産めよ、殖やせよ:人口政策確立要綱閣議決定(1941年(昭和16年))(JOICFP)

 9月18日、プーチン大統領はロシア・サンクトペテルブルクで開催された「第4回ユーラシア女性フォーラム」で演説を行った。

「第4回ユーラシア女性フォーラム」で演説するプーチン大統領(出所:YouTube)

 この中でプーチン氏は、ロシアが伝統的に女性を尊重してきたと述べた上で、同国の国策は、「女性の利益のための国家行動戦略」に依拠しているとした。それに続け、女性が職業的な成功を収めると同時に「多くの子どもがいる家族の要」となれるよう、適切な状況が作られつつあるとも発言している*2

*2「第4回ユーラシア女性フォーラム」でのプーチン大統領のスピーチ(ロシア大統領府)

 つまり、政府は女性に7人以上もの子供を産むことを求めながら、キャリアでも成功できる環境整備をしていると明言したことになる。プーチン氏は同じ演説で、この両立がいかに困難であるかを認めた上で、ロシアの女性はこれを可能にするのみならず「美しく思いやりがあり、魅力的な女性であり続けている。男には計り知れない秘密があるのだろう」などと持ち上げている。

 しかし、ロシアが最近掲げている「産めよ増やせよ」計画の詳細は「美しく思いやりがあり、子沢山の女性たちのキャリア支援」などというきれいごとでは決してない。ロシア国営のタス通信は9月25日、ロシアの上下院の議員らが、人々が子供を持たないという選択、いわゆる「チャイルドフリー」という考えを公的に広める行為を禁じる法案を下院に提出したと伝えた*3

*3Bill banning public propaganda of childfree ideas submitted to State Duma(TASS)