地権者の意図だけが考慮されてはいないか

 人と深い関わりがある自然の文化遺産を今後どのように保全していくべきか。当初の理念と、その後の時代状況に相応した形で認識されていた理念を継承していくことが意味を持つのは、現代のわたしたちがそれを現代の時代の中で意味があるものとして認識して初めて成り立つものである。

 もし、その理念を大きく変えていくべきだと考えるのであれば、それ相応の時代の論理がなければならない。

再開発事業が注目される東京・明治神宮外苑。手前左はイチョウ並木(写真:共同通信社)再開発事業が注目される東京・明治神宮外苑。手前左はイチョウ並木(写真:共同通信社)

 現在の再開発計画は、この空間を現在の社会生活における享楽的欲望の対象としてのみ捉えようとするものであり、また「主体」としても一部のセクターの利権に基づいたものである。そして、緑地もその理念に則って、人間にとって利便性があるような形で「造り込んでいい」という理念に基づいている。そこは、半栽培的な視点から見直すべきではないか。

 また、私たちが今後どのような社会生活を送るべきか、そしてその中でこの空間がどのような意味を持つのかという反省的な視点も必要だろう。

 今回の神宮外苑再開発計画は、土地所有ということを処分権まで含めた強い所有権を持つものとして捉えて、地権者の意図により「造り込む」ことが許されると考えられており、多様な人々の関係的価値が統合されるべき公共財としての緑地空間をどのように保全し再生していくべきかという視点に欠けている。

 このような再開発計画に抗うためには、人と深い関わりがある自然をどのように保全し、再生していくのかという理念が必要であり、本章ではその理念を提示してきた。