サルコ開発は「閉じ込め症候群」の患者がきっかけ?

 サルコの開発にかかわったのは、豪州で創設された安楽死推進団体だ。担当した安楽死推進派である豪州人の活動家は、1995年当時の安楽死法により、世界初の合法的安楽死を実施した医師として知られる。同法の成立に尽力したのも、この医師である。97年に同法が廃止されるまで4人の患者を死に至らしめた。

 この男性は今回、サルコによって米国人女性が亡くなるまでの経緯をドイツからリモートでモニタリングした。サルコ内部には、酸素と心拍数モニター、そしてカメラが内蔵されていたという。亡くなった女性の様子について、入室後、無言ですぐにボタンを押したと話している。

「サルコ・プロジェクト」は2012年、英国で四肢の麻痺などによる「閉じ込め症候群」により苦しんでいた男性(享年58)の弁護士が、この医師にこうした機器の開発について問い合わせたことで始まったとされている。この英国人男性は2005年、ギリシャのアテネに出張中に脳卒中で倒れた。九死に一生を得たものの、首から下が麻痺し、言葉を発することもできなくなった。まばたきでしか意思を伝えることができなくなり、生活の全てを他者に頼らなければならなくなった。

「私の人生は悪夢だ」と、当時BBCに話していた*1、2。記者への回答は、パソコンを通じて行われた。

*1Assisted dying debate: Tony Nicklinson in his own words
*2Locked-in man 'faces years of misery'

 男性は倒れるまでは楽天的な性格で、ラグビーなども楽しんでいたという。閉じ込め症候群になってからは、いっそアテネで亡くなっていたらとも話していた。

 英国で医師による安楽死は禁じられているが、この男性は高裁までその権利を争い敗れた。この決定に涙ながらに意義を唱えた男性はその後食事を拒否し、程なく亡くなった。