(放送コラムニスト:高堀冬彦)
JBpressで掲載した人気記事から、もう一度読みたい記事を選びました。(初出:2024年9月3日)※内容は掲載当時のものです。
半年間テーマがブレない稀有な朝ドラ
朝ドラとしては異例の熱狂を生んだNHK連続テレビ小説『虎に翼』が、27日に最終回を迎える。現在の時代設定は1959年。主人公で裁判官の佐田寅子(伊藤沙莉)は45歳になっている。
テーマは一貫して憲法第14条の「法の下の平等」。朝ドラの中には途中で迷走し、何を言いたいのか分からなくなるものも珍しくないが、この作品は違った。ブレなかった。
前半は男女差別の不当性が描かれた。寅子は自分たちの高等試験司法科(現・司法試験)の合格を祝う場で演説し、差別への怒りを爆発させた。もちろん私憤ではなく、公憤だ。だから観ていて痛快だった。第30回(1938年)である。
「女は弁護士にはなれても裁判官や検事にはなれない。男性と同じ試験を受けているのにですよ!」
第108回と109回では再び男女差別が描かれた。話の中心となったのは寅子を慕う若手判事補・秋山真理子(渡邉美穂)である。
新婚の秋山は自らの妊娠を寅子に打ち明けるが、喜びはなく、狼狽していた。裁判所から認められている出産休暇は産前6週間、産後6週間しかなく、これでは出産すると職場復帰は難しいからだ。出産イコール辞職。事実上の男女差別だった。
うろたえる秋山に対し、寅子は「あなたが判事を続けたいと思うのなら、居場所は必ず残す」と約束する。寅子は後輩のことをよく考える人になった。以前はミーイズムが強かったが、第76回から96回の新潟編で新潟地家裁三条支部長を務めたことで変わった。このドラマは観る側に気付かれぬうちに登場人物たちを成長させる。