プリゴジンの乱後に戦車部隊を編成し始めた「国家親衛隊」

 国家親衛隊は2023年6月の「プリゴジンの乱」(ワグネル創設者のプリゴジン氏が起こした反乱事件)の時、戦車を従えてモスクワへの進軍を企てる反乱部隊に対し、阻止するための重武装がなく座視するしかなかった。

 その後これを教訓に戦車の再配備が認められ、陸軍に対抗する「第二陸軍」の再興を図るが、これに陸軍が快く思うはずがない。加えて今年春ごろから軍高官や幹部を狙い撃ちにした降格人事や、汚職の疑いによる身柄拘束が頻発。これに伴う正規軍将兵の士気低下を危ぶむ声も出ている。

 こうした状況下のため、仮に逆侵攻が起こり即応できる陸軍部隊が近くにいたとしても、「国境警備は俺たちの主任務ではない。戦車を持つ国家親衛隊が対応すれば事足りるだろう」と、消極的な態度を取ったとしても不思議ではない。

 プーチン氏はウクライナ逆侵攻部隊をテロリスト集団と見なし、「対テロ作戦」を命じるが、逆侵攻部隊は戦車や歩兵戦闘車、大砲、ドローン多数で武装した、世界屈指の“機甲軍団”(戦車・歩兵戦闘車多数の重武装部隊)だ。

 対する国境警備隊やFSBの特殊部隊は、機関銃など歩兵が携帯できる兵器が中心の軽武装でとても歯が立たない。

ウクライナ侵攻するロシア軍ウクライナ侵攻するロシア軍(写真:Russian Defense Ministry Press Service/AP/アフロ)

 国家親衛隊も昨年から戦車部隊を編成し始めたばかり。しかも野戦(市街地以外の野山を舞台にした野外戦闘)では、ウクライナ陸軍の方が百戦錬磨で火力も圧倒的だ。

 さらにプーチン氏は逆侵攻をテロ行為と見なし、対テロ作戦はあくまでも国内の治安維持活動に過ぎないと問題を矮小化したことも、対応の遅さの遠因らしい。治安維持は警察やFSB、国家親衛隊の担当であり、軍の投入となれば、いろいろと法的手続きを踏まなければならない。

 仏ルモンド紙などによれば、「テロ集団」(逆侵攻部隊)に対処する軍とFSBの取りまとめ役として、今年5月に大統領補佐官から国家評議会書記に抜擢のデューミン氏が就任したという。

ロシア国家評議会書記に就任したデュミン氏ロシア国家評議会書記に就任したデューミン氏、プーチン氏後継者という観測も (2024年5月、写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 同氏は大統領など要人の警護を担う連邦警護庁(FSO)の出身で、プーチン氏のボディガードを務めるなど信頼も厚く「プーチン氏の後任」の最有力候補でもある。

 次期大統領として、軍・情報機関を統括する訓練の一環との見方もあるが、「大統領の名代としてデューミン氏が登板しなければならないほど現場での軍とFSBの確執が深刻で、両者が勝手バラバラに反撃を試みている証拠だ」との指摘もある。