熾烈な権力闘争・派閥争いと硬直する官僚主義

 2番目の「なぜ、軍事大国ロシアが即応できずもたもたしているのか」だが、これにはロシアの“伝統芸能”とも言うべき「権力闘争・主導権争い」「官僚主義・縦割り行政」が深く関わっていると思われる。

 同国では軍事・治安・情報関連の組織がいくつも並立し、守備範囲も重複してそれぞれが監視・けん制し合っている。組織間の権力闘争・主導権争いや、硬直した官僚主義・縦割り行政も激しく、ある意味「旧ソ連譲り」でもある。

 国境防衛任務も同様で、第一義的には「国家親衛隊(約33万5000人)と、FSB(連邦保安庁)配下の「国境警備隊」(約16万人)が担い、有事の際には陸軍など正規軍がサポートに回る。

 FSBは旧ソ連時代に「泣く子も黙る」と恐れられた、スパイ・秘密警察組織KGB(国家保安委員会)の国内情報部局が前身。軍の不穏な動きも監視し、プーチン氏の古巣でもある。

 国家親衛隊の前身は、警察を仕切る内務省配下の国内軍で、国内の治安維持(暴動鎮圧など)や対テロ作戦、国境警備が主任務だ。国内軍時代は戦車や大砲、攻撃ヘリも装備し、「第二の陸軍」とも呼ばれるほどの重武装で、陸軍がクーデターを起こした際のカウンター(対抗部隊)としてにらみを利かせた。

 1990年代~2000年代のチェチェン紛争では容赦ない武力鎮圧で悪名高かったが、2016年の改編で戦車など重武装を廃し、内務省管轄から大統領直轄となり現在に至る。

 これらを背景に軍部、特に陸軍とFSB、国家親衛隊による三つどもえの主導権争いと「縦割り」が災いし、互いの連携・情報共有もうまくいかず、逆侵攻への対応の遅さに直結したのではないだろうか。

 特に軍とFSBの不仲は有名で、ウクライナ侵略の作戦を巡って、両者は主導権争いを繰り返していると聞く。

ウクライナ侵攻にあたりドローンを扱うロシア兵ウクライナ侵攻にあたりドローンを扱うロシア兵(写真:Russian Defense Ministry Press Service photo/AP/アフロ)