乗用車への本格展開はいつ?

 トヨタとしては、2023年6月に東富士研究所(静岡県裾野市)で報道陣向けに実施した次世代技術に対するワークショップの中で、「当面の間、グローバルにおける燃料電池の需要は中長距離トラック・大型バス・電車・定置型など商用領域が主体で、乗用車領域の伸びは少ない」と言い切っている。

 商用領域についてトヨタは、2016年から燃料電池フォークリフトを市場導入している。この燃料電池フォークリフトは、製造しているトヨタL&Fの工場敷地内のほか、空港など全国各地で着実に導入事例が増えている。

 水素の精製については、自社敷地内の太陽光パネルを利用した再生可能エネルギー由来の電力を水電解して得て、エネルギーの地産地消を実施している。

 ただし、トヨタ関係者によれば、エネルギー効率やコストを考えると、今後は水素を外部から輸送、またはパイプラインで引き込むなど、様々な選択肢が考えられるという。

 水素と燃料電池を活用したモビリティを「手の内化(内製化)」していることで、次のステップに向けた発想が肌感覚から出てきていと言える。

 公道で使う燃料電池・乗用車について、こうした手の内化をベースとした議論が進むことを期待したい。

 それは、今回トヨタとBMWが公表した連携強化が量産車として結実する、2020年代後半から2030年代前半になるのか? 現時点で、筆者のようなメディア関係者のみならず、自動車産業界全体としてもその時期を予測することは難しい。

桃田 健史(ももた・けんじ)
日米を拠点に世界各国で自動車産業の動向を取材するジャーナリスト。インディ500、NASCARなどのレースにレーサーとしても参戦。ビジネス誌や自動車雑誌での執筆のほか、テレビでレース中継番組の解説なども務める。著書に『エコカー世界大戦争の勝者は誰だ?』『グーグル、アップルが自動車産業を乗っとる日』など。
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