水素確保に動く欧州、それでも水素社会の実現は不透明

 では、なぜトヨタとBMWはこのタイミングで燃料電池車に関する連携を強化するのか。
 
 大きな枠組みで見れば、グローバルにおけるエネルギー安全保障の観点で、EU(欧州連合)による水素確保の勢いが、アメリカ、中国、日本などと比べて明らかに強いことが挙げられる。

 各方面との意見交換の中で、そうした動きを裏付けるデータを筆者は確認している。

 ロシアによるウクライナ侵攻が、そのトリガーになっていることは明らかだが、そこにESG投資や、EU・中国・アメリカの3極間での政治・経済政策に対する駆け引きが絡む。

「クラウンセダンFCEV」に搭載された燃料電池システムの外観(写真:筆者撮影)

 ESG投資とは、従来の財務諸表だけではなく環境・社会・企業統治を重要視する投資のことで、SDGs(国連持続可能な開発目標)とも深く関係する。

 直近では、そうしたESG投資は一時のバブル状態に比べるとやや沈静化したと見る向きがある。だが、欧州には国や民間企業が世界中から中長期的な視野に基づき水素を確保しようという方針があり、それは今でも大筋では変わらないものと考えられる。

 また、個別の政策や規制の観点では、欧州グリーンディール政策の中で法案整備が進められてきた「2035年までに欧州域内で乗用車の新車を100%ZEV化する」という方針が宙に浮いている状況だ。

 背景には、ドイツなどが合成燃料を使う内燃機関(エンジン車、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車など)も認めるべきと主張を始めたことが挙げられる。ただ、欧州の自動車産業関係者らは「先行きは不透明」と見ている。

 なお、EUでいうZEV(ゼロエミッションヴィークル)とは、EV(電気自動車)と燃料電池車を指す。

 このように、水素社会や燃料電池車の未来については不確実性が高いなか、トヨタとBMWは、いわゆる「マルチパスウェイ」で手広く構えるという姿勢をとる。仮に欧州全体として水素活用を今後数年で一気に進める方向に傾いたとしても、各国・地域の事情によってインフラの整備などには大きな差が生じることが予想されるからだ。